土地には底地と借地がありますが、借地権でも相続税が高額になるケースがあります。今回は、その理由などを見ていきましょう。

相続税上の評価では「借地権」は高額となる

●問題点1 借地権とはいえ高額な相続税になる
土地には底地と借地があります。事例1では地主の立場から貸地が不良資産であるとお伝えしました。底地は収益性があまり見込めないことが多いために、相続前に整理、処分した方がいいのです。

 

しかし今回は、地主から土地を借りている側の問題です。借地の場合、自分が建物を建てて住んでいることも多く、居住するための利用という意味で、その価値は十分に果たしており、不良資産という位置づけにはなりません。

 

ただし、だからといって評価額が低いことにはなりません。底地や借地にはそれぞれが持つ権利の割合が地域ごとに決められています。地主側が持つ借家権、借り手側が持つ権利を借地権と呼びますが、その借家権割合は国税局により、それぞれの場所によって60%や70%と決められています。もちろんこの権利割合は相続税上の評価目安であって、保護された権利割合ではありません。

 

例えば1億円の土地があったとすると、地主は30%の3000万円、借地権割合が70%の地域であれば、借り手側は7000万円の不動産を所有していることになります。実際にDさんの150坪の土地の借地権割合は70%でした。路線価格は㎡あたり60万円だったので、単純な計算でも約2億1000万円の評価額となります。このままにしておけば、相続人に何千万円もの相続税が課される危険性があったのです。

 

これはつまり、自分が土地そのものを購入していなくても、土地を借りて建物を建てた時点で、高い評価額の資産を所有することになる可能性があるということです。

 

Dさんは既に奥さんを亡くしており、長男と嫁にいった長女、その2人が相続人となります。約2億1000万円の評価額の借地を含め、全体の財産から相続税を算出したところ、約4000万円が課税されるという結果になりました。4000万円の現金をおいそれと支払えるような人は少ないはずですので、この時点で納税資金についてあらかじめ考えておく必要があると判断することができます。土地を購入するか否かなどを考える前に、納税資金問題の解決を優先しなければならないケースだったのです。

小規模宅地等の特例を使えれば状況は変わるが・・・

●問題点2 小規模宅地等の特例が使えない
土地の相続には、小規模宅地等の特例というものがあります。居住用宅地や事業用宅地として該当する宅地があったときに、相続人がある条件を満たせば、上限面積まで宅地の通常の評価額から80%減額して相続することができるというものです。

 

なぜここまで大幅な減額が可能かというと、高い評価額の土地に配慮してあるということと、特に居住地に関しては生活に欠かせないものですから、高額な評価によって相続人が居住地を失わないようにするためでもあります。

 

相続税対策では、最も利用すべき大事な特例の一つとして考えられています。だからといって無闇やたらに80%の減額を行うわけにはいきませんので、適用条件があります。居住用宅地に該当するのは以下の2つの条件のどちらかを満たした土地です。


①被相続人が居住していた
②生計を一いつにする親族が居住していた

生計を一にするというのは、わかりやすく言えば被相続人が生活費全般を面倒見ていたかどうかということです。そして、相続人は以下の3つの条件のどれかを満たす必要があります(①被相続人が居住していた場合の案件)。


a.配偶者
b.同居していた親族
c.配偶者も親族もいない場合、相続開始前3年以内に自分もしくは配偶者が持ち家を所有していない親族


②生計を一の要件は、1.当該生計一親族が取得していること、2.申告期限までその宅地等を所有していること、3.申告期限までその家屋に居住していること。

 

Dさんの場合には、被相続人が居住していた借地なので居住用宅地としては該当していたのですが、配偶者も同居していた親族もおらず、長男は持ち家を持っており、長女は配偶者の旦那さんが持ち家を持っていたので、現時点で条件を満たした相続人がいませんでした。150坪のうち70坪が自宅敷地でしたから、適用できれば約1億円の自宅の借地権が約2000万円まで減額できるはずでした(特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等の併用なので200㎡が限度)。

 

また、アパート部分の借地権は貸付事業用宅地等として該当できるので、事業を引き継ぐことを前提として相続人が取得すれば50%の減額が可能です。Dさんの場合も適用できればアパート部分の80坪の借地権として約1億1000万円が約6840万円まで減額できるはずでした。しかしこちらもまた長男が不動産賃貸業に興味がなさそうだったので、相続人が条件を満たすかどうかが微妙なところだったのです。

本連載は、2015年12月10日刊行の書籍『税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策

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