これからは誰もが個人で将来のための資産形成に取り組み、資金を管理・運用していく時代です。本連載は、元銀行員でファイナンシャル・プランナーの高橋忠寛氏の最新刊で、2015年10月に刊行された『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋し、お金との上手な付き合い方や、効率のよい運用に役立つヒントを紹介します。

為替リスクを許容し過ぎているケースは意外に多い!?

リスクを抑えた安定的な資産運用を望むのであれば、非常に重要になってくるのが、為替リスクのコントロールです。日銀の資金循環統計によれば、日本人の個人金融資産1700兆円のうち、円預金が52%、年金・保険準備金25.8%、投資信託5.7%、株式10.6%、外貨資産2.5%となっており、日本人の個人金融資産は、円資産に偏っている状況です。

 

一方で、銀行等で資産運用に取り組んでいる人は過度に為替リスクを許容し過ぎているケースが多いように思います。銀行で資産運用をする場合、投資信託が中心となりますが、投資信託の残高上位は、以前は外国債券やREITで運用する商品ばかりでした。

 

国内外の債券と株式へ4資産均等に分散投資したとしても、半分は海外資産で、4分の1の日本株も為替相場の影響を受けやすいため、結局、円高が進んでしまうと、海外株式も海外債券も国内株式も下落します。為替の変動が資産全体の評価に与える影響が大きくなり、リスクの分散になっていないのです。

 

したがって、日本人が円建てで安定的な資産運用を望むのであれば、為替リスクのコントロールが肝になります。

為替ヘッジつき投資信託の利用も選択肢のひとつに

資産運用の専門家のなかには、「多くの日本人は給料も円でもらい、貯金も円資産、持ち家の人は不動産も円資産、将来の年金も円でもらう。保有している資産や収入がすべてて円建てなのだから、資産運用は海外資産でやればいい! 為替リスクなんて気にせずに、外貨資産中心の資産運用がよい!」という人もいます。

 

私はこの考え方にも一理あると思います。将来的に受け取る予定の給料や年金資産や、すぐには運用に回さない預金を含めた全体のバランスを考慮して、投資に回すお金は為替リスクのある資産を中心に行なうという判断であればよいのです。

 

しかし、銀行の現場でリアルな個人投資家の実像を見てきた感覚としては、「円高が進んだからといって、自分の円資産の実質価値が上がってよかった」とはならない人がほとんどです。自分が実際に運用している資産のみの増減だけで判断してしまうのです。だからこそ、投資初心者は為替リスクを意識してコントロールしておくことが重要になります。

 

そもそも、銀行で資産運用に取り組む多くの人は、そんなに大きなリターンを狙わず、預金の利回りを上回れば十分とか、インフレに対応できれば十分という人が多いと思います。それほど高いリターンを求めず、安定的な資産運用を目指すのであれば、為替リスクはとり過ぎないほうがよいのではないでしょうか。

 

とくにリタイヤ世代など、運用期間が10年程度とそんなに長くない人や、ある程度まとまった資産を運用していこうとする人は為替リスクをとりすぎないほうがよいでしょう。実際に、生命保険会社など機関投資家も海外へ投資している資産の一定比率は為替リスクをヘッジしています。

 

個人が為替リスクをコントロールする手法の1つとして、為替ヘッジつき投資信託を利用する方法があります。

 

ヘッジつきというのは、「○年後に、為替相場がどうなっていたとしても〇〇円で交換します」という為替予約のしくみを利用しています。円高によって評価額が下落するのを避けられますが、円安が進んでも、本来、海外資産に投資することで得られるメリットは享受できません。以前に比べると、為替の影響を受けないように運用しているヘッジつきの投資信託も増えてきています。

 

[図表]「ヘッジあり」と「ヘッジなし」の資産価格の推移

 

これまでにも述べてきたように、金融商品はシンプルなほどよいという原則は変わりませんので、利用する商品には注意が必要です。インデックスファンドの為替ヘッジつきのコースもあります。次回で触れますが、値動きの変動が少ないほど、資産運用の効率は高まり、結果はよくなります。為替相場が下落してしまった後、長い時間をかけて戻るとしても、多少のコストがかかっているとはいえ、為替ヘッジつきを利用する意義は高いといえます。このことは上記の表のデータにも表れています。

 

自身のポートフォリオのなかで、為替リスクの影響を受ける資産の割合を意識してチェックし、為替リスクをとり過ぎないようにしましょう。

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

高橋 忠寛

日本実業出版社

世の中に発信されている金融商品や資産運用に関する情報の大半は、金融機関など「売り手側」から出されているものです。また、最も身近な金融機関である銀行の営業担当者は、お金や金融商品に詳しいプロであるという一面と金融…

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