もはや富裕層だけのものではない「相続税」
もはや相続税は、ごく一部の富裕層だけに関わってくるものではなくなりました。2015年1月から相続税法が改正され、相続税の基礎控除が大幅に減額されたからです。
基礎控除とは、相続する財産から引き継ぐ負債などを差し引いた純額の相続財産がこの金額以下なら、相続税を納める必要はないという基準の枠です。
以前の基礎控除枠は「5000万円+1000万円×法定相続人の数」となっていましたが、改正後は「3000万円+600万円×法定相続人の数」となって金額で4割も縮小されました。
その結果、相続税を納めるべき人は改正前と比べて大幅に増えることになりました。世間でも、課税対象が拡大したことが大きく取り沙汰されました。
一方で、もっと注目するべきことがあります。
それは、大半の人たちが相続税を納めすぎているという事実です。
これまで私たちが関わってきた案件を振り返ってみると、全体の8割近くの人が相続税を余計に負担していました。
[図表]相続税を過払いしている人の比率
そして、申告から5年超が経過していないケースについては、私たちが妥当な税額を算出してその根拠となる資料を添えて行う還付請求によって、そのほとんどがお客さまの手元に戻っているのです。
この本を読み始めた人の中にも相続の経験者が少なからず存在していると思いますが、相続にあたり何か節税対策を取られていたでしょうか?
多くの方は相続税の申告を、懇意にしている会計顧問や知り合いの税理士にお願いしたことでしょう。
「税理士という税金のプロに任せたのだから、相続税の計算を間違っているわけがない」と考えているかもしれませんが、それは過信にすぎません。
実際、ほとんどの人は相続税の申告手続きを税理士に任せています。にもかかわらず前述したように、相続税の払いすぎが発生しているのです。
Point
相続税は、払いすぎているケースのほうが圧倒的に多い
これほど多く「相続税の過払い」が発生する理由
ほとんどのケースで税金のプロである税理士に申告を依頼しているのに、なぜこんなにも高い割合で相続税の過払いが発生しているのでしょうか?
「税理士がいい加減な計算をして間違えたのが原因ではないか?」と思われる人もいるかもしれませんが、相続税の払いすぎの原因は、「税理士による税金計算の間違い」ではありません。
それでは、何が原因なのでしょうか?
実は、「相続財産の評価」で生じているのです。
相続税額を算出するためには、亡くなった人の遺産をすべて金銭的な価値で評価することから始まります。
現金や預金は相続が起こったときの、額面(残高)通りの評価となります。
市場に上場している株式については、①課税時期(死亡日)の終値、②課税時期の属する月における日々の終値の月間平均、③課税時期の属する月の前月における日々の終値の月間平均、④課税時期の属する月の前々月における日々の終値の月間平均のうち、最も低い金額で評価を行います。
このように金融資産に関しては、税理士なら大きく評価を間違える可能性は非常に低いでしょう。問題は、不動産に対する評価です。
不動産の評価方法は以下の方法で計算することになっています。
●土地の評価方法
①市街地の場合は、「路線価※1×面積」で計算する。
(※1)路線価……道路(路線)に面している宅地の1平方メートル当たりの評価額のこと。
②市街地以外(田畑・山林・原野など)の場合は「固定資産税評価額×所定の倍率」で計算する。
→上の通り評価したものについては、建物所有の目的で「土地を他人に貸していた(貸宅地の)場合」は、借地権(地域によるが5~7割が多い)相当の評価減が認められます。
→一方、自分で建物を建てて、その「土地上の建物を他人に貸していた(貸家建付地の)場合」は、上記の評価から「借地権×0.3(借家権)」で計算される金額(地域によるが2割程度)の評価減が認められます。
→なお、路線価と借地権は国税庁のホームページで公開されています。
●家屋の評価方法
固定資産税評価額で評価する。
→上の通り評価したものについては、その建物を他人に貸していた場合、その評価に0.3をかけた金額の評価減が認められています。
Point
相続財産のうち、とくに「不動産評価」が問題になる
保手浜 洋介
税理士法人アレース代表社員 税理士・公認会計士・行政書士・宅地建物取引士