民法で相続の権利を定められている「法定相続人」
「はじめて聞くお話ばかりで、正直目が回りそうです」
熱心にメモをとっていた美千子がため息をついた。
「わかります。一般の方にとって相続と直面するのは一生で一、二回のことですし、法律面も複雑ですからね。それではまず相続の基本からご説明していきましょう」
由井が立ち上がり、応接室の片隅置いてあったホワイトボードを源太郎と美千子の正面に移動させた。
「まず相続で登場するのが『被相続人』と『相続人』、それに『相続財産』です。時々間違う方がいるのですが、『被相続人』は財産を残す人、『相続人』はその財産をもらう人のことです。さらに『法定相続人』という言葉があるので覚えておいてください」
「ただの『相続人』とは何が違うのですか?」
「これはある人にもしものことがあった場合、『財産を相続する権利がある』と民法で定められている人のことです。配偶者は常に法定相続人になります。その他にも、子供や孫などの『直系卑属』、両親や祖父母などの『直系尊属』、兄弟姉妹や甥、姪なども法定相続人です」
一番相続順位の高い人間が「法定相続人」となる
「私には兄と姉がいます」
源太郎は訊ねてみた。
「姉は存命ですが、兄は亡くなっていてその子供たちがいます。私にもしものことがあった時には、姉や甥、姪にも相続権があるということですか?」
「そうではありません。相続権には優先順位があって、一番は直系卑属、次が直系尊属、その次が兄弟姉妹となっています。順位が上の人がいる時には、それより下位の人の相続権はなくなります。つまり亀山さんの場合は奥様と一番相続順位の高い子供さんたちが法定相続人ということになります」
「なるほど。そうすると姉には子供がおらず、旦那もすでに亡くなっていますし両親ももう他界しています。姉にもしものことがあった場合は、私が法定相続人ということですね」
「おっしゃる通りです。ただ、お兄さんはすでに亡くなっているそうなので、お兄さんの分はその子供たちが相続することになります。これを『代襲相続』と言います」
「なるほど、そのあたりは理にかなっている気がしますからわかりやすいですね。もうすぐ古希を迎える錆びついた頭でも理解できます」
由井が笑う。
「相続対策の必要性を思いついてすぐに行動に移されたわけですから、亀山さんはまだまだしっかり冴えてますよ」
[図表1]相続分配方法の一例
[図表2]法定相続分の割合