本記事では、自殺、殺人といった事故や事件の現場となった「事故物件」、入居者が逃げていった「夜逃げ物件」のウラ話を紹介します。

「どこで、どんな死に方をしたか」がポイントに?

ひとくちに不動産屋の仕事といっても多種多様、儲ける方法もさまざまです。普通の不
動産屋や大手の不動産屋ができない、あるいはやりたがらない物件や客層を対象にすれば、厳しい競争の業界においても生き残れるうえに儲けも多くなるというわけです。

 

自殺、殺人といった事故や事件の現場となった「事故物件」などは、ある意味では「穴
場」といえます。とはいえ、不動産屋もイメージが大切ですので、事故物件を取り扱って
いることを前面に打ち出して宣伝するわけにもいかず、難しいところです。

 

2年前の4月、千葉市が、殺人事件があった家を公売にかけました。バブル期には1億円以 上だった物件ですが、売り出し価格はなんと756万円とのこと。入札制のため、希望者が殺到すれば高値を付ける可能性もあります。

 

しかし、よく考えてみてください。人間は必ず死にます。病院でやすらかに亡くなる人
は今となっては稀で、自宅で亡くなる人も多数います。ところが、物件にとっては「どこ
で死んだか、どんな死に方をしたか」ということが大きく影響するのです。

 

宅建業法では、告知義務は定められていますが、「事故や事件から何年たったら告知義
務がなくなる」とか、「その後何人が入居したら告知しなくてよい」などという詳細は定
められていません。


そもそも「ここで人が死んだ」という事実を永遠に言い続けなければならないとしたら
大変なことになってしまいます。もし、「これまで亡くなった人の数を必ず告知しなさい」ということになれば、不動産屋は「こちらのマンションでは今まで23人が亡くなっていますが、あちらのマンションは18人ですので比較的少ないですよ」などという説明をすることになります。この説明にいったい何の意味があるのでしょうか。

事故物件は居住者を一人介せば「普通の物件」に…!?

ほとんどの不動産屋は、告知義務により、最初のお客様には事故物件であることを説明
しますが、次の入居者には説明しません。また、ホテルや旅館などには告知義務がないの
で、殺人事件や何か問題があっても、いちいち宿泊客に「この部屋は、女性が殺された部
屋ですがよろしいですか」とか、「この部屋は変死体があった部屋です」などといった説
明は必要ないのです。新聞やテレビのニュースなどで報道されることはありますが、一時
的なものにすぎません。

 

世の中には、事故物件でもあまり気にせず、家賃の金額のほうを気にする人もたくさん
います。相場より条件を少しよくすれば希望者も出てくるものです。それに、その次の入
居者を募るときにはもう事故物件ではなく「普通の物件」になるわけです。

 

事故物件でも相場の家賃が欲しければ、敷金、礼金などをゼロにしたり、新品TVか冷
蔵庫などのプレゼントを付けたりすると、すぐに決まります。お金に余裕のある不動産屋
なら、こうしたプレゼントは錬金術のひとつといえるでしょう。また、お祓いをする、事
件のあった建物ごと建て直して大きな集合住宅にしてしまう、シェアハウスにする、寮に
するといった対策も有効です。

家賃数カ月未払い+連絡が取れない=夜逃げの可能性

不動産屋に勤務していたときから、大家さんから連絡があったら真っ先に飛んでいくのが筆者のモットーです。連絡の内容は、ほとんどの場合で家賃が入っていないとか、最近入居者をみかけないとか、違う人が住んでいるみたい等の相談です。連絡を受けると入居者に連絡を取り、家賃の催促や集金、入居者確認等に行きます。

 

入居者と連絡が取れず、電話しても「現在使われていません」などのガイダンスが流れる場合は緊急連絡先にも電話をするわけですが、それでも連絡がつかない場合は、大家さんや管理人、場合によっては警察官立ち会いで部屋に入ります。独り暮らしの人などでは突然死などのこともあるため「安否確認」は重要です。

 

ただ、家賃が数カ月未払いの状態で連絡が取れない場合は、夜逃げの可能性が高いのです。夜逃げ物件には、金目の物や高価な物がなくなっていたり、生活に必要な食料や下着類がなかったり、ゴミのまとめ方や、電化製品のコンセント、電気や水道、ガスなどのライフライン、ブレーカー、冷蔵庫の中などに特徴があり、部屋の中を見れば、現在住んでいるのか逃げてしまったのかは一目瞭然です。

「残置物」は宝の山!?・・・保証人の許可を得て売却

家賃が払われていなくても、部屋に残された私物(残置物)についての所有権は残っていますので、入居者の親や保証人、または同居していた人物から解約と所有権放棄の同意をもらいます。とはいえ、身内の方などが遠方の場合は、処分を依頼されることがほとんどです。また、預かっていた敷金から処分費用や未納賃料を精算しますが、家賃についてはほとんど保証会社が支払ってくれるほか、残置物処理についても、保証会社がやってくれる場合もあります。

 

残置物は大家さんに確認してもらい、保証人等から許可をもらってから処分にあたります。雑誌、マンガ、CD、置き物、キーホルダー、鍋、皿、ゴミ袋、ティッシュBOX、洗剤、未使用のシャンプーやリンス・・・かつて不遇の時代を過ごし、お金がなくて物をなかなか買うことができなかった筆者にとっては、すべてが宝の山に見えました。

 

シリーズ物の雑誌、DVD、ゲーム機やゲームソフトは買い取り業者に買い取ってもらいましたが、入居者が外国人の場合などは、本やCD、DVDなど異国情緒あふれる物ばかりで感動したものです。

 

カバンやジャンパーといった服飾雑貨はネットオークションに出したりもしましたし、古いMacのパソコンなどの高値で売れる物もありました。他人の残置物を売って稼ぐなどみみっちい、せこいと思われるかもしれませんが、使える物は捨てるより誰かに使ってもらったほうがいいのです。リサイクルと思ってください。

 

大家さんにしてみれば残置物処理など面倒なだけで、早く部屋をきれいに片付けて次の入居者を募集したいので、筆者と業者が残置物と格闘している姿はボランティアに見えるようです。

 

思った以上に残置物が高値で売れたりした場合には、大家さんに話して清掃業者の支払いに充てたり、未納賃料に充てたりしますが、そこまでの金額にならなかった場合は、ほとんどの大家さんはお小遣い、手間賃として渡してくれます。そのお礼として、退去後のリフォームや清掃などの業者に減額交渉をして、大家さんに恩返しをするわけです。こうして、大家さんと不動産屋は持ちつ持たれつの関係を絶妙のバランスで保っているといえます。

 

 

川嶋 謙一

株式会社未来投資不動産 代表取締役社長

 

本連載は、2016年10月21日刊行の書籍『誰も知らない不動産屋のウラ話』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

誰も知らない不動産屋のウラ話

誰も知らない不動産屋のウラ話

川嶋 謙一

幻冬舎メディアコンサルティング

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