面倒でも、見積もりは必ず複数の会社から取る
◆要注意トーク2「わが社に任せていただければ、収益には問題ありません」
営業トークとともに、営業マンが、賃貸物件建設の“説得材料”として活用するのが「事業計画書」です。
そこには、建物の概要、建設コスト、資金計画(借入金と返済計画)などの項目が数字とともに並び、さらに、家賃収入から借入金返済額、経費、課税額などを差し引いた利益を時系列で試算した収支計画書が添付されています。
聞きなれない項目や、ズラリ並んだ数字を目の前にし、「よくわからないからお任せします」と腰が引けてしまう人もいるかもしれませんが、一大事業に乗り出す経営者としてあるまじき行為です。
なかには、最終的な収益だけを強調し、「お任せいただければ、収益には問題ありません」などと言い、それぞれの項目についての細かい説明をスキップするような営業マンもいます。決して鵜呑みにせず、「建設コスト」「資金計画」「収支プラン」について、一つ一つの項目、数字をチェックしましょう。
「建設コスト」を吟味する上では、そもそも1社の見積もりだけを見ても、金額の多寡やクオリティのよし悪しを判断することはできません。“1社にお任せ”ではなく、複数の会社から見積もりをとるのが必要不可決です。
大手メーカーなら「ぼったくられるようなことはないだろう」と思うかもしれませんが、実は大手ほどブランド力をタテに、高く金額を設定することもありえます。面倒でも、地元の工務店なども含め、自分から複数の会社に見積もりを依頼するべきです。
その際、会社によって「標準設備」の基準にバラつきがあることに注意しましょう。たとえば、同じ「給湯設備」でも質も値段もさまざまです。必ずカタログやショールームなどで、該当設備の性能についてきちんと説明を受け、同等の性能を持った設備同士で比較検討することが大事です。
また、安ければいいというわけでもなく、“見せかけの安さ”につられないことにも注意が必要です。見積もりが常識的なコストを大きく下回る際は、廉価設備が標準品になっているケースもあり、別の設備を希望すると、「それは別注文になります」と見積額が高くなっていくことがあります。
悪意がある建設会社は、わざと質や性能が劣る設備や仕様で見積もったり、必ず必要な設備を計画書に計上していなかったりということもありえます。その上で、「この仕様にした方が入居者が集まりますよ」などと言って、コストが高い仕様、設備に変更させるという話も耳にします。工務店でも、「設計費をお安くしました」と言って、その分を工費に乗せているようなケースもあるのです。
修繕費の見積もりも同様で、材料費と施工費を合計した「材工共」で算出されているケースでは、それぞれの内訳をクリアにしましょう。あいまいな「諸経費」についても見逃すことなく、しっかりと中身を吟味するべきです。
金利上昇リスクを加味してシミュレーションしているか
「収支プラン」の主な注意点は、「金利設定」と「家賃設定」、「諸経費の計上額」です。
たとえば、借入金返済額の前提が変動金利なのにもかかわらず、当初の低金利のままの想定で算出しているケースもあります。数十年にわたって金利上昇リスクを加味しない収支プランなどありえません。超低金利下にあって、今後の金利上昇をも想定したシミュレーションになっているかも必ずチェックするべきです。
家賃設定については、①周囲の相場に対して高めに設定していないか、②入居率を100%で見積もっていないか、③家賃の値下げリスクを考慮しているか、に要注目です。
竣工日から入居者が埋まることはありえませんし、入れ替えや現状回復工事などで家賃が入らない期間が必ず出てきます。
加えて、アパートは経過年数にしたがって、空室率が増え、家賃の値下げに踏み切らないといけないケースをも想定する必要があります。しかし、実のところ、借入金の返済期間中、新築時の家賃のままで試算をしているような“甘い”収支計画書も見受けられるのです。
悪い実例ばかりを挙げてきました。もちろん誠意をもって対応してくれる営業マンもいますが、実際にさまざまな失敗事例を見てきたからこそ、みなさんには同じ轍を踏むことのないよう、細心の注意を払っていただきたいのです。