自由度の高い金融市場で知られる香港ですが、仮想通貨はどのように取引されているのでしょうか。本連載では、香港における仮想通貨の取引の現状や規制を解説するとともに、香港の現地情報についてもご紹介します。今回は、世界主要各国の超富裕層が財産を築いた経緯について、データを元に分析していきます。※本連載は、小峰孝史が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

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「財産を得た経緯」を分類し、国ごとの特徴を検証

世界の富裕層たちは一体どのようにして富を得ているのでしょうか。今回は、富裕層が富を獲得した経緯に注目してみたいと思います。

 

米国有数のシンクタンクであるピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics)の報告書、"The Origins of the Superrich: The Billionaire Characteristics Database"の分析を見ていきましょう。

 

この報告書では、2014年"Forbes World’s Billionaires list"に掲載されたBillionaireの1,645人について、財産を得た経緯で分類し、国ごとの特徴を論じています("Forbes World’s Billionaires list"は毎年データが発表されていますが、ここでは「2014年版」で検証していきます)。

 

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国によって大きく異なる「富獲得」の傾向

ビリオネア(資産10億米ドル以上)の多い国の順に並べてみますと、日本は27人で、世界14位タイとなっています。

 

この報告書は、財産を得た経緯を、「(A) 相続(Inherited)」と「(B) 自力(Self-made)」に二分したうえで、「(B) 自力(Self-made)」を、(B-1) 企業創業者(Company founders)、(B-2) 株主・経営者(Owners and executives)、(B-3) 政治的コネクション(Political connections and resource related)、(B-4) 金融(Financial sector)に分類しています。

 

[図表1]国別に見たビリオネアの人数(2014年データ)

出所:米国ピーターソン国際経済研究所の報告書を元に筆者作成
出所:米国ピーターソン国際経済研究所の報告書を元に筆者作成

 

上位16ヵ国のビリオネアが財産を得た経緯について、これら5つの分類の中でどのような偏りを見せるか、ぜひ想像して見てください。国によってその傾向はかなり異なっています。下記の図表2を見てみることで、いろいろな傾向が見えてきます。

 

[図表2]ビリオネアが資産を獲得した経緯

出所:米国ピーターソン国際経済研究所の報告書を元に筆者作成 ※財産獲得経緯を「(A) 相続、(B) 自力」に分け、「(B)自力」を、(B-1) 企業創業者、(B-2) 株主・経営者、(B-3) 政治的コネクション、(B-4) 金融に分類。
出所:米国ピーターソン国際経済研究所の報告書を元に筆者作成
※財産獲得経緯を「(A) 相続、(B) 自力」に分け、「(B)自力」を、(B-1) 企業創業者、(B-2) 株主・経営者、(B-3) 政治的コネクション、(B-4) 金融に分類

 

●相続で財産を得る割合が高いヨーロッパ、低い米国

 

この報告書を出したピーターソン国際経済研究所が真っ先に言及しているのは、米国は相続で財産を得た人の割合が低いのに対し、ヨーロッパは依然としてその割合が高いという点です。

 

相続によって財産を得た超富裕層の比率が、弱肉強食のイメージの強い米国や英国より、共同体主義的でリベラルなイメージの強いヨーロッパ大陸諸国の方が格段に高いというのは、ある意味驚きかもしれません。

 

●相続による獲得率が非常に高い韓国、極端に低い中国

 

相続で財産を得た超富裕層の比率は、同じ東アジアでも国によって大きな差があります。日本(18.5%)と台湾(17.9%)はほぼ同じですが、韓国が74.1%と非常に高いのに対し、中国は2.0%と、低さが際立っています。

 

この報告書は中国について「ビリオネアが増えてきたのが極めて最近であるので、相続で財産を得たビリオネアは少ないのだろう」とコメントしています。

 

●ロシアは「政治的コネクション」で財産を得た超富裕層が半分以上

 

上記の図表2のグラフから際立った特徴が読み取れるのが、政治的コネクションによって財産を得た超富裕層を示す、紫色の箇所です。

 

 

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いわゆる先進諸国では紫色の比率が一桁台と低く、特に日本の場合は0%(これは政治的な透明さを示すものとして誇ってよいでしょう)ですが、ロシアだけは64%と異常な高さを示しています。

 

ロシアの場合も中国と同じく、相続で財産を得た超富裕層が0%と非常に少ないのですが、これも中国と同様、ロシアで超富裕層が生まれたのがソ連崩壊後と極めて新しく、相続の段階に至っていないことを示している証左と思われます。

 

その一方で、1990年代以降財産を急激に増やしてきたのは、天然資源などの事業を政府から格安で払い下げを受けた「オリガルヒ(Олигархи, Oligarch)」などと言われる、政権と癒着した新興財閥です。ロシアの石油王として財産を築き、イングランド・サッカー・プレミアリーグのチェルシーを2003年に買収したことで有名な、ロマン・アルカディエヴィッチ・アブラモヴィッチ(Рома́н Арка́диевич Абрамо́вич, Roman Arkadievich Abramovich)はその典型例です。

 

●財産獲得の経緯に大きな偏りがない香港

 

人数を見ると、香港は45人のビリオネアが挙がっており、世界第8位です。人口わずか700万人ということを考えると、ビリオネア率は非常に高いといえます。香港のナンバーワンは長江グループの創業者、李嘉誠(Li Ka Shing)で、資産310億米ドル(約3.1兆円)でした。

 

彼自身がそうであるように、香港は、相続以外の形で財産を築いた人も多く存在します。内訳をみると、企業創業者、株主・経営者、金融といった経緯による人々の比率も高い傾向にありますが、同時にまた、現在の香港は相続税がないこともあり、相続で財産を得た超富裕層も比較的多いと言えます。総じて、香港の超富裕層の財産獲得経緯は、どれか一つに偏ることなく、バランス良いといえるでしょう。

 

超富裕層の比率が非常に高い点・財産獲得経緯のバランスの良さからも、香港が富裕層向きの場所であることを窺い知ることができそうです。

 

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