税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
「事務弁護士」と「法廷弁護士」が存在する香港
香港の弁護士は、香港のロースクールを卒業した後、法律事務所で「トレーニー」として2年間修行するというのが基本的なパターンです。トレーニー期間を終えて弁護士として承認される式は高等法院で10月に行われるのですが、筆者の会社と関係の深い法律事務所のトレーニーが新たに弁護士になる際に筆者も招待され、式に参加したことがあります。
香港の裁判所で、普通に目にすることの多いのは、HSBC本店の前にある趣深い建物でしょう。このHSBC本店の前にある建物は、2015年9月から使われている香港終審法院(Court of Final Appeal)です。
[写真1]HSBC本店前にある香港終審法院(Court of Final Appeal)
しかし、弁護士として承認される式が行われるのは高等法院(High Court)、金鐘(Admiralty)の、何の変哲もないビルの中です(下の写真2は、承認式の後に高等法院の玄関前で記念写真撮影などをしている様子です)。
[写真2]
この承認式は、トレーニーを受け入れていた弁護士が裁判官の前で推薦文を読み上げ、トレーニーが宣誓書にサインする、という儀式でした。
高等法院の法廷には普段は法廷弁護士(Barrister)しか入れないのですが、この時ばかりは、招待者も入れました。もっとも、法廷内は写真撮影禁止なので、残念ながら写真はありません。
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香港の法律の制度は一国二制度の関係で、英国統治時代の制度が維持されています。そのため、裁判官や法廷弁護士(Barrister)は、英国同様ウィッグをかぶっています。おおよそのイメージですが、下の写真3のような感じです。
[写真3]
日本では、顧客から事実関係の話を聞くのも、裁判所で訴訟活動をするのも、一人の弁護士が全て一連の業務を行うことができます。しかし、英国や旧英国植民地の諸国では、前者の業務はソリシター(Solicitor、事務弁護士)、後者の業務はバリスター(Barrister、法廷弁護士)と、分業されています。
人口1億2000万人の日本における弁護士の数は36,415人(2015年3月末現在)ですが、人口約720万人の香港にいるソリシターの人数は5,303人(2010年末現在)、バリスターの人数は1,321人(2016年4月現在)です。人口比で見ると、ソリシターの数は日本の弁護士の2.5倍以上となり、かなり多いといえます。
1時間あたりの単価が高く、所要時間の計算もシビア!?
人数が増えて競争が激化すると、質が上がって値段が下がる・・・というのが一般的原理です。では、人口比でソリシターの数が日本の2.5倍以上の香港の弁護士費用が日本よりずっと安いかというと、決してそうではありません。
日本の場合、弁護士報酬の決め方は様々です。契約書作成の場合はあらかじめ定めた金額を作成後に請求する定額方式だったり、訴訟の場合は着手金+成功報酬だったり、時間計算方式(1時間当たりの単価×所要時間)だったりします。
香港の場合、成功報酬方式が禁じられていることもあり、時間計算(1時間当たりの単価×所要時間)を基本とすることが多いです。そこで、日本の弁護士と香港の弁護士の1時間当たり単価を、ざっと比較してみましょう。
日本の弁護士の場合、弁護士の1時間当たり単価は、弁護士の年次やランクによるのですが、約25,000円~50,000円でしょう。一方、香港の場合、高額なことが多い英米系の事務所だと、約3,500香港ドル(約45,000円)~7,000香港ドル(約91,000円)です。比較的安価な、中小規模の香港ローカルの法律事務所でも、約3,000香港ドル(約39,000円)~約5000香港ドル(約65,000円)です。
時間計算方式の場合、1時間当たりの単価×所要時間と書きましたが、香港では、1時間当たりの単価が高いだけでなく、信じがたいことに所要時間も長い傾向があります。
あくまでも筆者の経験上の感覚ですが、日本の弁護士は、実際に使った時間よりも短めに請求する傾向があります。例えば、契約書作成に5時間かかった場合でも、「所要5時間」として請求せず、「所要2時間」として請求しているように感じられます。これは、「この契約書を作成するのに5時間かかったと書いたら、頭が悪いと思われるかもしれない。2時間で作成できたことにしておいた方がカッコいいかな」という、弁護士の自意識過剰な発想に由来するような気がします。
それに対し、香港の弁護士は、実際に要した時間をきっちり請求する傾向にあるようです。さらに、先ほど書いたとおり、訴訟をする場合には、ソリシター・バリスターの両方を雇わなくてはなりませんから、訴訟をする場合の費用は日本で訴訟をする場合の何倍にもなります。
そこのようなお話をすると、「香港法弁護士は使いにくい、香港でビジネスをするのは面倒だから、進出するのはやめよう」と考える方もいるかもしれません。また実際に、これまでずっと日本で生活してきた日本人・日本だけでビジネスをしてきた日本企業が、いきなり香港法弁護士を使いこなすのは難しい場合もあるでしょう。
しかし、それだけで香港でのビジネスをあきらめるのは早計に過ぎると思います。
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率直に申し上げると、日本の場合、弁護士・会計士・税理士などのプロフェッショナルが無償でアドバイスをすることが多く(=アドバイスをしても報酬を徴収できないことが多く)、そのため、日本人・日本企業は、言葉は悪いですが、甘やかされている部分があるように感じます。
決して香港法弁護士が非情なわけではなく、先進国の標準的なサービスを提供していると思いますが、日本流のサービスに慣れた身にとっては、「香港法弁護士は使いにくい」と感じてしまうのでしょう。
しかし、それらの点を踏まえておけば、実際に香港法弁護士に業務を依頼する際に、戸惑うことも少ないと思われます。
小峰 孝史
OWL Investments
マネージング・ディレクター・弁護士
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