元本返済を前提としない資金調達の方法もある
前回は、起業における資金調達のうち間接金融(借入)を取り上げました。今回は、直接金融について見ていきましょう。
間接金融が銀行借入や社債など元本返済が必要なお金であるのに対し、直接金融とは、株式発行やベンチャーキャピタル(投資会社)による出資、クラウドファンディングなど、元本返済を前提としない資金調達のことです。
一番ポピュラーなのは株式発行ですが、これは起業するにあたっての自己資金のようなもので、家族以外に出資してくれる人といえば、縁戚者か仲の良い友人ぐらいでしょう。
ベンチャーキャピタルというのはプロの出資者です。中堅企業以上への出資が多く、起業に際して出資を受けられるのは、あなたの事業がよほどアピール力のあるサービスや技術を有し、あなた自身が出資のプロを相手にプレゼンできる優れた提案力を持っていることが前提です。起業時の資金調達としてはハードルが高いといえます。
また、当然相手はプロですから、相応の配当金やキャピタルゲイン(株の値上がり益)をシビアに求めてくるでしょう。そして、株式は会社の支配権でもありますから、議決権のある株式を他人に発行すれば、会社を思い通りに動かすことができなくなるリスクもあります。ですから、一般的に起業時における自己資金を超える資金調達は、借入金で調達することが多いのです。
ただ、インターネットが普及した現代社会では、これとは異なった資金調達方法が流行っているようです。
自由の女神は、クラウドファンディングで資金調達!?
話はすこし昔にさかのぼります。1886年に完成した自由の女神がフランスからアメリカに寄贈されたことを知っている方も多いと思いますが、フランスも台座までは用意してくれませんでした。
台座用の資金を切らしたアメリカの自由の女神製作委員会のために立ち上がったのが、優れたスクープに贈られる「ピューリツァー賞」で有名な「新聞王ピューリツァー」でした。
彼が考えたのは、広くお金を集めることです。「自由の女神を海に立たせよう!」といったかどうかは知りませんが、自身の新聞「ニューヨーク・ワールド」で大々的にPRし、広く大衆に資金を求めました。彼は6ヵ月で約12万5千人から1ドル以下の善意を集め、10万ドルもの資金を調達しました。その資金が自由の女神をニューヨーク湾に立たせたのです。これが草創期の「クラウドファンディング」と言われています。
クラウドファンディングとは、群衆(crowd)から資金調達(funding)すること。大衆が魅力を感じるプロジェクトに広く出資を求め、大きな力にしてプロジェクトを成功に導く手段です。
では、今日のクラウドファンディングはどうかといえば、インターネット経由で、未来を先取りした製品の製造資金や書籍出版資金、バンドの活動資金など、夢の実現に必要な費用を広く集める資金調達方法として注目を集めています。集めた資金への見返りは、金銭による配当のケースもありますが、大多数はその製品や書籍だったり、コンサートのチケットだったりします。出資する方も、「金銭的利益よりも夢を買う」といったケースが多いようです。
クラウドファンディングの仕組み
クラウドファンディングは、資金提供者へのリターンによりの3つの類型に分類されます。
●金銭的リターンのない「寄付型」
●金銭リターンが伴う「投資型」
●プロジェクトが提供する権利や物品を購入できる「購入型」
「寄付型」は、災害や病気などハンディキャップを持つ状況にある人を支援するボランティアが多いようですから、起業者の資金調達としては、「投資型」か「購入型」で資金を集めることが多いようです。特に、資金決済に関する法律や金融商品取引法などにより個人間の送金や投資が制限されている日本では、「購入型」のクラウドファンディングが最も多く、認知度も高いようです。いずれにしても、税制や法規制には注意しましょう。
下記の図表のように、一般的には、起業者がプラットフォームのサイトに事業やプロジェクトを公開し、そのプロジェクトに共感した不特定多数の出資者がサイトを通じて出資を積み上げていく仕組みです。そして、プラットフォームは、出会いの場の提供やマーケティングノウハウの提供により、出資金の十数%の手数料を得ることになります。
[図表]プラットフォーム(インターネット業者)を介在したクラウドファンディングの仕組み
クラウドファンディングで資金調達するメリットは、金銭面はもちろんのこと、製品のプレマーケティングや広告宣伝の訓練にもなることです。製品構想をインターネットに載せることにより、消費者のニーズや市場の趨勢を事前に知ることができるとともに、プラットフォームサイトへの載せ方や見せ方により集まる金額が大きく変わってきますので、広告宣伝の腕を磨けるというわけです。
10%を超える手数料を、金利に比べて高いと考えるか、広告宣伝・マーケティングノウハウ・法規制の授業料と考えるかは起業者の判断ですが、大衆の共感を得られるサービスや技術を持ちながらも、知名度が低い起業者の資金調達手段としては一つの選択肢になるといえます。