今回は、士業と「M&A」の関わり方について見ていきましょう。※本連載は、社会保険労務士 金山経営労務事務所所長、医療労務コンサルタントの金山驍氏の著書、『10年継続できる士業事務所の経営術――安定運営のための48のポイント』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、安定運営を目指す士業事務所の「未来戦略」について説明します。

士業がM&Aに関わる場合には2パターンある

士業がM&Aに関わる場合、以下の2つのパターンが考えられます。

 

①事務所同士のM&A(事業承継含む)

②顧客のM&Aの支援

 

2つのパターンについて順に解説していきます。

 

M&Aとは、同業の士業、もしくは他士業同士が合併(買収)し、事務所の規模を拡大することです。

 

士業は、大事務所といえども一般の法人に比べると規模が小さいため、一般のM&Aと比較しても、そのM&A規模は小さいといえます。主に、税理士や社会保険労務士事務所など、顧問契約を持ち、継続性のある士業が対象になります(弁護士事務所や特許事務所もあります)。

 

士業のM&Aは、所長が高齢になり事務所の存続が継続困難になった場合などに、適任者に譲渡や売却などをするケースが多く見られます。最近では、M&A専門会社に依頼し、M&Aを行うケースも見られます。

 

M&Aを行うにあたってのメリットとデメリットは次の通りです。

 

〈メリット〉

①売上増

②規模の拡大

③成長の時間の短縮

④対応できる業務に幅ができる

⑤M&Aをした事務所のノウハウが手に入る

 

メリットとしては、売上が増加し、一気に規模の拡大が図れることです。通常、数年〜数十年かかかるところを、短期間で拡大することが可能になります。また、対応できる業務に幅ができます。一例として、飲食業に強い事務所とITに強い事務所が合わさることで、事務所として両方の業務に対応できるようになります。

 

〈デメリット〉

①M&Aに伴う費用

②受け継がれる顧問先がどれくらい継続し、必要資金(M&Aに伴う費用のこと)を回収できるのかわからない

③両事業所の職員の間のコミュニケーションがうまくいかない場合もある

④相乗効果(シナジー)が得られない場合もある

 

デメリットは、M&Aに伴い費用が発生することです。費用は、主に顧問先の継続性や年間売上高を元に算出する場合が多いといえますが、ケースによって対応が異なります。

 

一番の懸念点は、受け継がれる顧客の継続性と職員の問題です。受け継がれた顧客が1年も経たずに契約解除になったり、受け継いだ職員が退職したり、既存の職員と相性が合わないというようなことになると、思うような相乗効果が得られません。

顧客のM&Aに関わり、アドバイスや支援をする場合も

一方、ここでは、詳しく取り上げませんが、士業が顧客のM&Aに関わる場合もあります。M&Aに関するアドバイスや支援を行います。

 

M&Aにはデューデリジェンスという考え方があります。デューデリジェンス(DD)=買収監査ともいい、買収対象企業の事業リスク、財務状況、人事情報などを調査し、買収にあたっての調査を行います。

 

各士業が行うのは、主に下記の通りです。

 

●弁護士:法務デューデリジェンス

●税理士・公認会計士:財務デューデリジェンス

●社会保険労務士:人事デューデリジェンス

●中小企業診断士:ビジネスデューデリジェンス

●弁理士:知財デューデリジェンス

●不動産鑑定士:不動産デューデリジェンスなど

 

最近では、M&Aの取り扱いに専門特化した士業事務所も多くなってきました。M&A市場の動向を見つつ、この分野に進出するのも一つの戦略となります。

10年継続できる士業事務所の経営術──安定運営のための48のポイント

10年継続できる士業事務所の経営術──安定運営のための48のポイント

金山 驍

合同フォレスト

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