今回は、「働き方改革」が士業ビジネスにもたらすチャンスを見ていきましょう。※本連載は、社会保険労務士 金山経営労務事務所所長、医療労務コンサルタントの金山驍氏の著書、『10年継続できる士業事務所の経営術――安定運営のための48のポイント』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、安定運営を目指す士業事務所の「未来戦略」について説明します。

中小企業の実態に即したコンサルティングを

2018年執筆現在、注目を集めている働き方改革。いろいろな施策がありますが、働きやすさ、生活しやすさに焦点を絞って改革していきましょう、というものです。

 

働き方改革というと、目新しい働き方が注目されがちですが、労働時間管理の基本をしっかりと押さえて、長時間労働の抑制や働き方を見直してみることが重要になります。

 

1987(昭和62年)年の労働時間改革(労働時間週48時間→週40時間に)、フレックスタイム制の新設に比べると、インパクトの少ない改革であり、既存の枠組みの中での改革となります。

 

いくつか要点はありますが、主なポイントは、次の通りです。

 

●長時間労働の是正(労働基準法改正)

●非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金)

●賃金引上げと労働生産性向上

●柔軟な働き方がしやすい環境整備 など

 

特に、長時間労働の是正に関する労働基準法改正には、36協定の上限規制、年次有給休暇の取得促進や月60時間を超える時間外労働に関する割増賃金率の中小企業への適用など、内容は多岐にわたります。

 

働き方改革が士業にどのように影響を及ぼすかというと、大きく2つの点に分けられます。

 

①顧客へのコンサルティング

②自事務所における働き方改革(働きやすい職場づくり)

 

①は、働き方に関する社内での取り組み(組織改革)、労働基準法改正に伴う法令順守が挙げられます。働き方に関する改革なので、当然ながら一番影響があるのは、労働関連の専門家である社会保険労務士です。

 

その他の関連士業では、

 

●弁護士:労働法専門弁護士、企業顧問弁護士

労働法改正に伴うコンサルティングなどが該当します。

 

●税理士:企業顧問税理士

経理処理・財務管理のIT・AI化の提案などによる生産性向上提案などが該当します。

 

●中小企業診断士:企業顧問中小企業診断士

社内組織マネジメントまで手掛けている場合は、施策計画・立案・実行サポートなどが該当します。

 

関連士業は、これらの問題点や課題点のコンサルティング・手続きなどを手掛けていくことになります。

 

<働き方改革・施策の一例>

ノー残業デー、週4日勤務制、プレミアムフライデー、テレワーク、副業容認、生産性向上のための評価制度の見直しなど

 

上記、現状ある働き方改革の事例の多くは、大企業の事例です。それを、士業の顧客である中小企業に当てはめたコンサルティングが必要になります。

 

例えば、大企業や国が行っている「ノー残業デー」を例に見てみましょう。中小企業が導入したとして、ノー残業デー導入→定時に会社の電気を消す→仕事を家に持ち帰る→結局は長時間労働・疲れが取れないといったスパイラルに陥る可能性があります。

 

働き方の改善には、根底からの意識改革が必要となり、評価制度などの再整備が必要になります。このように中小企業の実態に即したコンサルティングが各士業には求められます。

 

②の自事務所における働き方改革については、例えば税理士事務所ですと、クラウド・AIなどを利用したシステムの導入などにより生産性向上を行い、職員の労働時間の削減→長時間労働の是正に繋げるといったことが考えられます。

中小士業経営者も「海外業務」が身近になる時代

「海外進出」「海外展開」「海外との取引」と聞くと、どのようなことを思い描くでしょうか? 大企業などが手掛ける案件で、中小の士業経営者にはあまり関係ないよ・・・と思う方も多いと思います。

 

弁護士の世界では、日本の弁護士資格+アメリカ(州)の弁護士資格(もしくは海外弁護士事務所と提携)を持っている方や、弁護士+医師の資格を持っている方が現状でも数多くいて、近い将来高度な資格のダブルライセンスが珍しくない時代がやってきます。

 

しかし、必ずしもこのアッパー層を目指す必要はありません。

 

同時翻訳ソフトの目覚ましい発展で、ドラえもんの「翻訳こんにゃく」のような同時通訳に近いアプリもあります。

 

また、交通網の整備により、海外に行く時間が大幅に短縮され、海外がより身近になります。海外との取引も、より簡単になり、中小の士業経営者が普通に海外業務を行う未来がすぐそこまで来ています。

 

私の事務所でも、韓国本国や中国本国から直接のご依頼が増えています。現在ご依頼をいただいている中国企業は、本国で数千人規模の会社の日本支社です。当然ながら、私は中国語をまったく話せません。

 

知り合いの行政書士は、多くの海外法人設立支援を手掛けています。私同様、英語や現地語はまったく話せません。しかし、無料の翻訳ソフトを駆使し、現地とやりとりをし、業務をしっかりと完遂しています。

 

会計事務所の中には、日本から海外に進出を考えている企業に対し、現地での税務サービスを提供するため、現地オフィスを設けるといった事例も最近では増えてきています。

 

アメリカの会計現地法人では、会計情報をクラウドに上げ、フィリピンで仕訳を行い、翌朝には仕訳の会計情報ができているといった、時差を使ったサービスを行っています。コストも大幅に削減でき、メリットも数多くあります。

 

現地の法律専門職と提携するのも面白いかもしれません。韓国で社会保険労務士と同様の資格は公認労務士となります。現地の本社の顧問公認労務士と提携し、日本支社の法人をこちらで受託し、互いの法制度のすり合わせをし、自社と法律に合った制度設計を行っていくのです。

 

考えられるだけでも、日本から海外への支店設立、海外特許支援、国際税務(現地に職員が必要な場合も多い)、国際訴訟、国際労務など、業務は多岐にわたります。先駆者として、途上国に法的サービスを導入するのも良いかもしれません。

 

中小企業の絶対数が減少している日本国内だけに目を向けていては生き残れません。海外進出や海外展開は、生き残るために必要な視点なのです。

 

できるところからでかまいません。まずは取り組みやすいアジアから手掛けてみると、見えてくるチャンスが必ずあります。

10年継続できる士業事務所の経営術──安定運営のための48のポイント

10年継続できる士業事務所の経営術──安定運営のための48のポイント

金山 驍

合同フォレスト

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