取引の効力がどの国の法律に基づくか、不確実な要素も
ロシア企業の代理人と名乗る者の代理権限は、慎重に確認することが推奨される。
代理権の有無や無権利の自称代理人による取引の効力は、どの国の法律に基づいて判断されるのか、不確実な要素が多い。たとえば、ロシア企業が自社従業員などを代理人に指定した場合、代理権限は、一般的にはロシア法に基づき付与されていると考えられる。
しかし、当該代理人が権限を越えて日本企業と取引した場合、日本企業はどの国の法律に基づいて取引は有効だと主張できるのかは、効力を争う方法や場所、取引内容により異なりうる。
争いを避けるために、また、争いになった際にどの国の法律が適用されても取引が有効であると認められるために、できる限り確認することが重要である。
ロシア・ビジネスでは、委任状が広く利用され、委任状の偽造や悪用も多いためか、委任状に関する法令・制度が随時改正されている。ロシア企業が、日本企業に代理人の委任状の提示を求めてくる背景にはかかる事情がある。
会社の支店長・駐在員事務所長は、労働法上、会社代表者に準じて一般従業員と異なる扱いを受けるが、民事法上、会社を代表・代理する権限は与えられておらず、この点は一般従業員と変わらない。支店長・駐在員事務所長の権限の範囲は、委任状において確定されなければならず、会社定款や支店規則などに権限が記載されているだけでは足りない(2015年6 月23日付最高裁判所総会決議第25号129項)。
委任状が提示された場合、委任状に署名している者に委任状発行の権限があるのか、本当に本人が署名しているのか、委任状の形式は守られているか、委任状はまだ有効かなどが確認ポイントとなる。
委任状に署名している者の権限
会社が委任状を発行している場合、会社の名において委任状に署名できる者は、会社の代表者、法律または定款が指定する者である(民法185.1条4項)。会社の代表者の場合、定款が代表者の委任状発行権限を制限していることがあるため、注意が必要である。この点を確実にするために、公証人の認証を受けた委任状を要請することが考えられる(公証法59条)。公証人が、権限の制限の有無を確認するからである。
署名の真正
委任状の署名が本当に本人の署名か、見抜くことは難しい。この点からも、取引相手に公証人が認証した委任状の提示を求めることが珍しくはない。2017年2 月から、認証委任状の情報が下記連邦公証人協会サイトで公開されており、偽造の認証委任状でないかも確認できるようになっている。
委任状の形式
公証人の認証が要請されている取引の場合、委任状も公証が必要である(民法185.1条)。
委任状の期間
提示された委任状が有効か、作成日と有効期間を確認する。委任状の3年の期間制限は撤廃されているので、現在、自由に期間を設定できる(民法186条)。委任状に期間の定めがない場合、作成日から1年間のみ有効である。国外での行為を委任する委任状の場合、期間の定めがなければ、撤回されるまで有効である。事業活動に関する委任状の場合、期間満了前に撤回することができない委任状や特定の場合にのみ撤回できる委任状も認められている(民法188.1条)。
委任状の撤回
委任状が有効期間満了前に撤回されていないか、可能な範囲で確認しなければならない。2017年1月施行改正により、公証人が認証している委任状であれば、撤回にも公証人の認証が必要であり、下記連邦公証人協会サイトで調べることができる。
認証のない委任状は、単なる撤回か公証人が認証する撤回による(民法188条1項1号)。委任者は、委任状を撤回した場合、委任状による取引に関係する第三者に撤回を知らせなければならず、第三者が委任状撤回につき善意無過失の場合、撤回されている委任状の代理人による取引は有効とされる(民法189条1項、2項)。
この点、2017年2月から、認証委任状だけではなく通常委任状の公証人による認証撤回も下記連邦公証人協会サイトに公開され、第三者は、公開翌日以降、委任状の撤回を通知されたものとみなされる。
代理人の本人確認
委任状には代理人のパスポート情報(パスポート番号や登記住所)が記載されるので、代理人が所持するパスポートと照合する。ロシア・パスポートの有効性は内務省のサイトで確認できる(第1章◇3 ⒂「パスポートの失効」を参照)。
●Проверка доверенностей по реквизитам(詳細情報による委任状の検索)
ロシア法における無権代理・越権代理
原則として、代理権限がない者による取引や、代理権限を越えて行われた取引は、会社による追認(追認とみなされる行為)がなければ、会社ではなく代理人(代理人と称した者)を取引当事者として成立する(民法183条1 項)。
ただし、委任状や法律が定める代理権限を、契約や支店・駐在員事務所規則が制限しており、当該制限を超えて代理人が取引をした場合、取引は会社を取引当事者とした取引として有効である。
会社が、裁判手続において、取引相手が当該制限を知っていたか、または、知り得たことを証明した場合には、会社は取引を取り消すことができる(民法174条1 項、2015年6 月23日付最高裁判所総会決議第25号122項)。