伸びているのはIT、医療、教育、レジャーの分野
幾田 ChinaAMC(China Asset Management Co. Limited)とは、どのような企業なのでしょうか? 日本の読者に教えてください。
コートニー ChinaAMCは中国本土で最大の運用会社の一つで、140億米ドル以上の運用資産を持ちます。設立はちょうど20年前です。運用会社で設立20年というと歴史の浅い印象を受けるかもしれませんが、中国の株式市場が設立されたのが比較的近年ですので、中国市場投資ではパイオニアとして知られています。
私が所属するChinaAMC(HK)はその名が示す通り、ChinaAMCの完全子会社で香港に拠点を置いています。10年前の2008年に中国市場への投資に関心を持つ海外の投資家にサービスを提供するために設立されました。現在はChinaAMC(HK)単体で約7億米ドルの預り資産を運用しております。
幾田 オフショア(香港)での中国株運用を担当されているということですが、中国本土で働く本社スタッフとの繋がりはあるのですか?
コートニー もちろんです。投資には現地の情報が重要ですから。北京と香港合わせて200人以上の専門家が、株式から債券までさまざまな資産クラスにまたがり、中国市場を注視しています。各アナリストたちは平均して2-3業種をカバーしており、密にコミュニケーションを取ることで市場に対する理解を深める努力をしています。
実際、北京に出張に行く機会も頻繁にあります。今日の中国では、物事が急速に変化しているため、たびたび現地に行かなければ取り残されてしまうのです。
現地に行かない間も、定型のレポートが日次/週次ベースでこちらに送られてきますし、月毎に決められた会議も開かれます。また、インスタントメッセージやSNS(WeChat等)を駆使することで、迅速な情報収集と、個人単位の緊密なコミュニケーションを心がけています。
このような体制を通じて、投資のために必要な情報が、たとえ不完全な形であっても、現地から即座に得られることのメリットは計り知れません。
幾田 中国本土の最新事情へアクセスできることが、ChinaAMC(HK)の強みのようですね。本社のほうは創業20年とのことですが、中国株式市場の歴史と変遷を簡単に教えていただけますか?
コートニー 先日、深圳に赴き、テクノロジー関連の会議に出席しました。中国は本当に凄まじいスピードで急速に変化しています。私自身も時々中国の株式市場の変遷を振り返ることがありますが、その変わりざまに感心してしまいます。
ほんの10年から15年ほど前、中国株式の代表格は、インスタントラーメン、赤ちゃん用のおむつなどを生産している企業でした。経済成長における発展途上の段階では生活必需品類に需要が集中するのです。
しかし、生活水準が向上すると、同じ消費関連でも、より高級な消費財に目が向くようになります。例えば、車やブランド物の服飾品等です。その後、IT企業が成長スピードを加速し、スマートフォンやその他インターネット関連の企業が、経済誌の見出しを飾るようになりました。
今でも、IT企業は引き続き順調に伸びています。そして消費者は、医療、教育、レジャーなどの分野で、より高品質のサービスを求めるようになりました。
幾田 現在の中国市場で伸びている、医療、教育、レジャーの分野について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?
コートニー ヘルスケア関連では、中産階級の増加と人口動態の変化とともに、中国本土の規制に変化が見られます。ここ数年、CFDA(中華人民共和国国家食品薬品監督管理局)はかなり抜本的な改革を実行し、米国FDA(食品医薬品局)と同等の基準を採用するようになりました。
この改革がイノベーションをもたらし、医薬品やバイオテクノロジー関連の企業経営に劇的な変化をもたらすことが予想されます。研究開発や新製品の開発に力を入れている企業の株価は良くなる傾向にありますが、今後はその傾向がより顕著になることでしょう。
教育関連企業では、子どもや大学の教育に重点を置く企業の、香港や米国ADR(預託証券)市場への上場が増えています。この分野の需要は非常に強いです。生活水準の基礎がしっかりしている家庭では、次世代の教育に余裕資金を使いたいと考える親が非常に多いと言えます。
また、レジャー関連ではやはり旅行でしょう。今までは国内の旅行中心だった人々が、海外旅行を計画するようになるなど、ここでも消費スタイルに変化が見られます。
貿易戦争で割安に・・・「自動車産業」は狙い目か?
幾田 医療とレジャーについてはなんとなくイメージが湧きます。一方で、教育と聞くと、確かに家計における金額は小さくないでしょうが、その受け皿となる企業がそこまで成長するか、ピンときません。
中国は非常に長い間「一人っ子政策」を採用してきた歴史があり、今でこそ政策転換を果たしましたが、急に子どもの数が増えるとも思えません。このような環境で、どのようにしてITやヘルスケア、レジャー等の企業と比肩するほどの規模にまで成長するのでしょう?
コートニー 人口が伸び悩む、という点については同感です。政府が一人っ子政策を撤廃した後も、一家庭当たりに占める子どもの数は少なくなる傾向にあります。
教育関連企業のポテンシャルは、生徒の数が多くなることによるビジネス・ボリュームの増加ではなく、“質”です。質の高い教育を受ける環境は、中国では非常に限られています。ChinaAMC(HK)が投資している教育関連企業は、中国本土でも最高水準の教育を生徒に施すことが可能で、授業料が割高でも多くの顧客を集められる企業です。
教育分野は他の業種と異なり、将来のキャッシュフローが非常に安定しています。入学した子どもが頻繁に学校を変更することはなく、たいていの場合、少なくとも数年間在籍することになります。
また、他社に先駆けて市場シェアを伸ばした大手が、より小さく、特定の地域に強みを持つ会社を吸収・合併する動きがあることも注目に値します。
このように教育分野は、魅力ある業種ではあるのですが、米国ADR市場では、最近少し下がったとはいえ、現時点でも、かなり割高な価格水準です。弊社は将来性のある成長企業に投資をするスタイルを得意としていますが、企業の潜在成長力を先買いするために、あまりに多くのコストをかけるのは望ましくないと考えます。なので、この種の成長株が割高なときは、その評価額がより合理的な水準に落ち着くまで待つことにしています。
幾田 いわゆる成長株とみなされない業種で魅力的な評価額、つまり割安な銘柄はありますか? たとえば、中国の鉄鋼や石炭の会社はここ数年非常に厳しい経営状況にあり、「オールド・チャイナ(古い中国)」として投資家の間では認識されています。
コートニー 大型銘柄で今出たような銘柄を少し保有していますが、いずれもポートフォリオに占める割合は大きいものではありません。こうした銘柄は景気のサイクルに左右される業種が多く、短期のトレーディング目的で保有することはありますが、長期投資目的で保有するのは難しいですし、弊社のスタイルにはなじみません。
例外は、それらの企業が変革を遂げており、それまでの伝統的ビジネス以外の分野に参入しようとしているような場合です。このようなケースでは、長期投資の対象として検討するに値するかもしれません。
例えば、今であれば、私たちは自動車セクターに関心を持って見ています。自動車セクターは米国と中国との間で行われている貿易戦争のど真ん中にいる業種で、ここ最近の評価はかなり割安になりました。中国は既に自動車産業を外資に解放する姿勢を表明しており、例えば自動車ディーラーはこれにより、外国製の車を販売しやすくなります。
また、完全なる国内生産車以外は中国国内のパートナーとの合弁会社が製造していますが、市場開放後も海外ブランドは国内の販売網やブランディング、マーケティング等の分野で中国国内のパートナーの力を引き続き必要とするでしょう。
だから、大手の海外ブランドはまだ中国のOEM先と協力しなければならず、その契約は一般的に8〜10年続くので、長期的には中国本土の自動車メーカーのビジネスが脅威にさらされる可能性は少ないと思います。海外の競合他社が流通経路や現地パートナーとの関係を見直したり、単独で行えるように関係を再構築しようとしたりするかもしれませんが、恐らく難しいでしょう。
幾田 貿易戦争をチャンスと捉えているとは興味深いですね。多くの投資家はこれを潜在的なリスクイベントとみなしています。
コートニー 中国本土で何が起きているのか? これは、国際的なニュースに触れているような投資家でも、なかなかわかりにくい部分があります。だからこそ、現地情報のリサーチが大きな価値を生むのです。ChinaAMC(HK)では現地のスタッフと綿密に連絡を取り合い、投資家のみなさんに有益な情報を提供できるよう努めています。
コートニー・ウェイ
ChinaAMC(HK)
ポートフォリオ・マネージャー マネージング・ディレクター
幾田朋彦
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス)
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