米国との貿易戦争に揺れる中国。ただ現地情報に精通した専門家の中には「投資のチャンス」と捉える向きもある。中国本土に本社を構える運用会社China AMCの香港支社ChinaAMC(HK)でポートフォリオ・マネージャーを務めるコートニー・ウェイ氏に、中国市場の最新投資事情などを伺った。後編のテーマは「中国市場の実力」。聞き手は、ニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)のダイレクター幾田朋彦氏である。

新興国の枠組みを超越している、中国の経済力

幾田 オフショア市場である香港の運用会社にいると、中国国外の投資家と話す機会も多いと思いますが、彼らは今の中国をどのように見ていますか?

 

コートニー 中国への理解はさまざまです。中国に精通していて、中国へ投資をする準備ができている人は、すでに腕の良い投資マネージャーを探しています。中国で何が起きているのか、まったく理解していない投資家もいるので、そうした方々には、まず最近の状況の変化を伝えます。

 

歴史的に中国は新興市場と見なされる時期が続きましたが、今では新興国とは別のものと捉える投資家が増えてきました。新興国は通常貿易赤字を抱え、経済成長のために海外の資本に依存していることが多いのに対して、中国は貿易黒字であり、経済成長における海外資本への依存度は非常に低いのです。

 

幾田 米国の影響はどうでしょう? 新興市場の多くの国が米国経済の影響を多大に受けています。


コートニー 米国が金利を上げると、新興国に投下されている資金が米国に引き上げられるとよく言われます。しかし、中国の場合は外部資本に大きく依存していないので、米国の金融政策による影響も相対的に低いと言えます。

 

ChinaAMC(HK)では常に中国と日本を比較していますが、日本株が単独の資産クラスとして特別視されているように、中国株が個別の資産クラスとして、一般的に認識される日も近いでしょう。

 

昨年、組み入れられたMSCI新興国株式指数で見ると、将来的には中国株式のMSCI新興国株式指数に占める割合は、本土とオフショアの合計で40%以上となる可能性があります。「新興国」という枠組みの中で留めておくにはやはり限界があると言わざるを得ません。

 

 

幾田 MSCIが中国株式を新興国株式指数に含めようとしているときに、既に目端が利く世界中の投資家が、中国を他の新興国と分けて見ようとしているというのは、なんとも皮肉なものですね。

 

コートニー そうですね。ただ、先ほど申し上げた通り、投資家によって中国に対する理解度にはかなり差がありますので、中国にあまり詳しくない投資家からすれば、あまり違和感がないのかもしれません。

 

注意が必要なのは、新興国株式の運用が上手なマネージャーが必ずしも中国株式の運用で成功するとは限らないということです。この点、私たちはダイナミックかつ巨大な市場である中国をカバーするうえで十分な規模の人員を抱えていると考えています。

 

海外の運用会社の場合、中国を見ている専門家の人数が6、7人いると、大きなほうでしょう。ChinaAMCは200人規模の投資チームを抱えておりますので、新しい投資テーマや、まだ市場にあまり知られていない有望銘柄の発掘等で優位に立つことができます。

 

過去には中型株式の選別で実績を出していることもあり、海外の投資家からの期待もそこに集中します。繰り返しになってしまいますが、急速な技術革新もあり、ここ5〜10年で中国を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。したがって、投資家サイドとしても現地の事情に精通する専門家を必要としているのです。

 

幾田 5〜10年前は国有企業の新規上場が多く、建設・鉄道・銀行等で大きな銘柄の上場が続いていたと記憶しています。今も国有企業の上場はありますが、民間企業の上場が相対的に増えているように感じます。これも、中国で起きている「急速な変化」の賜物なのでしょうか?

 

コートニー そうだと思います。勢いのある業種の変化という点で言えば、市場の関心は建設や通信等の基礎インフラに関係する企業や、その他の生活必需品関連の企業から、ITおよびサービスといった第三次産業に属する会社へと移っています。

 

これらの新興企業は天然資源や設備といった、いわゆる有形固定資産に依存しておらず、知的財産を武器に業績を伸ばしていますので、民間企業のほうが競争優位に立ちやすい構造でもあります。したがって、我々は小型の革新的な企業で、次のテンセント、次のアリババになり得る会社を見つけ、彼らとともに成長できるよう、努力を続けています。

中国株を「組み入れないリスク」もますます大きく・・・

幾田 アリババと言えば、最近は香港証券取引所が中国からより多くのビジネスを誘致しようとしているように感じます。資本市場に導入されているいくつかの改革についてお話しいただけますか?

 

コートニー そうですね。香港株式市場では小規模な改革に混じり、大きく2つの制度変更が行われました。

 

第一に、種類株についての改革です。アリババは株式の種類によって異なる議決権を持つ種類株の取り扱いを希望していたのですが、香港市場はそれを禁止していたので、その後、米国市場に鞍替えを行いました。

 

香港証券取引所にとって、これは非常に苦い経験として記憶に残っており、同じ失敗を繰り返したくないと考えています。現在は議決権に対する制限を緩和し、普通株との議決権の差が10倍以内の種類株の上場が認められるようになりました。この制度改革は、いわゆる「ユニコーン(10億米ドル以上の時価総額を上場前から誇る企業)」の上場を促すだろうと考えています。これは市場にとって良いことです。

 

第二に、バイオテクノロジー企業に対する上場基準を緩和しました。バイオテクノロジー企業は事業の性質上、設備投資や研究開発費が先行して初期のころは利益を上げることが難しいため、資金調達が難しく、歴史的にプライベートエクイティやベンチャーキャピタルに依存していました。

 

しかし、香港証券取引所は臨床試験である程度の成果を出している企業の上場を認めたため、そうした企業の多くが新規上場に向けて準備を進めており、その一部は今年後半に上場までこぎつける見通しです。香港市場ではかなりの大型銘柄を除くとヘルスケア業種に属する銘柄がまだ少なく、この試みにより市場がより成熟していくことが期待されています。

 

幾田 香港と本土の証券取引所との間に競争はありますか? 本土とオフショア市場は今後も共存し、繁栄を続けると思いますか?

 

コートニー 中国の本土市場とオフショア市場は徐々にですが、統合しつつあると思います。 歴史的に、香港は独立・分離した市場であり、主な市場参加者はグローバル投資家でした。彼らの行動パターンは単純で、成長性があると見れば資金を持ってきますし、リスクがあると見ればすぐさま引き上げます。

 

しかし今は香港と中国本土がストック・コネクト等の制度を通じて多様な投資家が入り混じるようになりました。お互いに競争意識はあるのでしょうが、特性の異なる部分をうまく生かして共存・共栄することは可能だと思います。

(左)コートニー・ウェイ氏 (右)幾田 朋彦氏 ChinaAMC(HK)社にて
(左)コートニー・ウェイ氏 (右)幾田 朋彦氏
ChinaAMC(HK)社にて

幾田 あなたたちは投資家と話す機会に恵まれています。時価総額またはその他の尺度に基づいて、グローバル投資家は中国にどの程度のお金を振り分けるのが適切だとお考えですか?

 

 

コートニー 一般的には、投資対象となる市場の時価総額に基づいて資産配分をしているところが多く、結果として似たような配分、似たような損益を生んでいる印象です。そのアプローチに一定の合理性はあると思いますが、同時に市場は完全に効率的ではなく、価格設定に歪みが生じていることがあるのも見逃せません。

 

時価総額以外では、GDPを参考にするのも手です。この手法のメリットは上場企業だけでなく、非上場企業の生産性も考慮に入れることが可能になる点です。中国は世界で二番目の経済大国であり、購買力平価で換算すると世界最大との見方もあります。では、ポートフォリオに占める割合を一番か二番にするべきなのかと言えば、そうではなく、ここは中国の発展途上な部分や不完全な部分のリスクを考慮に入れる必要があります。 

 

幾田 なるほど。ポートフォリオのメインにすることはできないが、組み入れないリスクも非常に大きいと考えてよいということでしょうかね。

 

コートニー そうですね。中国は、情報が見えにくい部分があり、メディアが推測からリスクと捉えて報道することも多いですが、正しい情報を掴めていれば、本当の実力が見えてきます。このような情報へのアクセスを無視すると、今なお続く大きな発展への投資機会を逃すことになるのではないでしょうか。

 

 

コートニー・ウェイ

ChinaAMC(HK)

ポートフォリオ・マネージャー マネージング・ディレクター

 

幾田朋彦

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 

ダイレクター

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、ChinaAMC(HK)およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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