海外資産の相続は、国内における相続とは比べ物にならないくらい複雑になるケースがほとんどで、塩漬け状態になってしまうことも珍しくありません。では、海外資産を優良資産として残すためにはどうすればいいのでしょうか? 連載第1回目は、海外資産の相続に関する「法律面」の基本的なポイントを見ていきます。

英米法系、大陸法系の国でそれぞれ共通の特徴がある

相続を巡る具体的な制度や手続きは国によってそれぞれ異なっています。制度が違えば、当然、相続が生じた場合の注意点や相続財産を円滑に受け継ぐためのポイントなども異なってきます。

 

本連載では、とりわけ日本人が資産を所有することの多いオーストラリア、シンガポール、アメリカ、カナダを対象にして、これらの国々における相続時の注意点や相続対策の方法などについて論じたいと思います。

 

なお、今回紹介する「相続に関する法律面の総論」と、以降紹介するオーストラリア、シンガポールの記事については、桃尾・松尾・難波法律事務所の上村真一郎弁護士に、アメリカの記事については、i-Tax有限責任事業組合の角田康子税理士に、カナダに関する解説文については、ラム・ロー・西尾会計事務所のドン西尾カナダ勅許会計士に寄稿していただきました。

 

ほとんどの国において、相続の仕組みは、通常、法律に基づいて整備されています。そこで、はじめに、海外資産が絡む相続における法律の適用について簡単に説明しておきましょう。

 

日本人が外国で資産を有する場合の相続や日本人が外国に住んでいる場合の相続など、複数の国が絡む相続問題が存在する場合、まず、どの国の法律が適用されるかということを考えなければなりません。そして、適用される国の法律に照らすとどのようにして相続が行われるかを次に検討することが必要になります。

 

まず、相続に関してどの国の法律が適用されるかということですが、世界の国々の法体系は大きく英米法系の国(大まかにいいますと、イギリスやアメリカの法律を適用する国々。現在の英連邦の国であるオーストラリアなどを含み、かつてイギリスの統治下にあった国を含みます)と大陸法系の国(イギリス以外のヨーロッパの国々やこれらの国々の統治下にあった国を含みます)に分けることができ、それぞれに共通の特徴が存在します。

 

英米法系の国々では、不動産については不動産の所在地国の法律を、また、それ以外の動産については被相続人の国籍または最後の住所地の法律を適用するという考え方に立っているといえます(これを、相続分割主義といいます)。

 

そして、大陸法系の国々では、相続財産の種類によって適用される法律を区別せず、統一的に被相続人の国籍または最後の住所地の法律を適用するという考え方に立っています(これを、相続統一主義といいます)。

 

次に、適用される国の法律が決まった後に、その国の法律に照らせば、どのような手続きが必要となり、どのような結論となるのかを検討することになります。

相続の考え方も、どちらの法体系に属するかで異なる

なお、相続の考え方においても、いわゆる英米法系の国と大陸法系の国とで共通の特徴が存在しますので、これについて簡単に説明します。

 

まず、英米法系の国においては、人が亡くなった場合、亡くなった人が有していたあらゆる権利義務が、裁判所により選任される人格代表者と呼ばれる者にいったん帰属して、その人格代表者が相続財産を管理し、債務については支払いを行った後にまだ財産が残っている場合にのみ、相続人に財産を分配するという方式をとります(これを、管理清算主義といいます)。

 

これに対し、大陸法系の国においては、人が亡くなった場合、その亡くなった人のあらゆる権利義務が、相続人に包括的に移転すると考えます(これを、包括承継主義といいます)。この場合、裁判所の関与は少なく、また相続人はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産についても相続する可能性があるということになります。

 

国ごとに考える場合、その国がどのような特徴を持った法体系の国であるかということにも注意して見ていくことが必要となることを忘れないでください。

本連載は、2014年9月18日刊行の書籍『海外資産の相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

海外資産の相続

海外資産の相続

永峰潤・三島浩光

幻冬舎メディアコンサルティング

金融商品や不動産など、海外資産の相続は、手続きが面倒なため、家族の誰も欲しがらないお荷物になってしまうことが多い。ただでさえ複雑な日本の相続税に、国や地域によって異なる税制が絡んでくるため、その処理にも煩わされ…

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