前回は、なぜ「オークション」が最強の売却手法といえるのかを解説しました。今回は、「第一価格オークション」「第二価格オークション」の仕組みについて見ていきます。

運任せでギャンブル性が高い「第一価格オークション」

オークションには色々な方式があり、どの方式を使うかで結果が変わったり、変わらなかったりする。目的に応じた使い分けと、細部のチューニングが肝心である。たとえば高く売るのはひとつの重要な目標だが、どの方式がよいのだろうか。今回も次回に引き続き、いくつか主要なオークション方式を概観していこう。

 

裁判所が差し押さえた不動産を売却する、いわゆる競売(けいばい)は、オークションのわかりやすい例だ。物件を欲しい者は、用紙に「いくらで買う」と入札額を書いて、期限内に裁判所に提出する。期限が過ぎると、裁判所は、提出された入札用紙を見比べて、一番高い入札額を探す。

 

裁判所は、一番高い入札額をつけた者を、このオークションの勝者とする。勝者にはその金額を支払ってもらう。勝者は「自分が書いた金額を支払う」わけだから、仕組みとしては単純で、直感的である。この方式を第一価格オークションという。

 

しかし、方式が単純だからといって、そのもとでの入札者の振る舞いが単純にすむとはかぎらない。実は入札する段階で彼らが置かれた状況は、かなり込み入っているのだ。

 

どの入札者も、できるだけ安値で勝ちたいと思っている。そのためには二番手より1円だけ高い入札額にするのが理想的だ。でも他の入札者たちが、いくらの入札額をつけてくるかは分からない。その思惑が交差するのが、第一価格オークションのもとで入札者が置かれる状況だ。どうすればよいか分からないから、最終的にはかなりあてずっぽうで、一か八かの入札をすることになる。ギャンブル性が高く、結果は運任せになりやすい。

 

ギャンブル性が高いというのは売る側から見ても同じであって、収益が運任せになりやすいということだ。しかし、たいていの人にとって、不動産を売ることは人生にそう何度もあることではない。その数少ない機会を、わざわざギャンブル的にしなくてもよいのではないだろうか。

入札額が一番高い者が「二番目の入札額」を支払う

これを改善するのが第二価格オークションだ。入札額が一番高い者が、自分の(一番高い)入札額ではなく、別の二番目に高い入札額を払うことにする。たとえば入札者が3人いて、入札額が(110万円、120万円、140万円)とすると、勝つのは一番高い140万円を入札した者だが、その人が支払うのは二番目に高い120万円になる。

 

第二価格オークションのもとでは、勝者は自分が書いた金額ではなく他人が書いた金額を支払う。このひねりがオークションを一変させるのだ。

 

それぞれの入札者は「最大でこの金額まで払ってよい」という金額(最大支払意思額)を頭のなかにもっている。それより高くは払えない、払いたくないといった金額だ。もちろんその値は人によって異なる。実は第二価格オークションのもとでは、この最大支払意思額をそのまま入札用紙に書くのがトクになっている。正直に「最大でこの金額まで払いますよ」と申告するのがトクということだから、「正直は最善の策」である。

 

このことは人間の戦略的行動を分析するゲーム理論により厳密に定式化され、定理として証明される。議論のキーポイントは次のことだ。

 

●第一価格オークションのもとでは、勝者になっても「ああ、もっと低い入札額にしておけばよかった(=自分の支払額と、第二価格とに差があった)」ということが起こる。正直に最大支払意思額を入札額にするなどもってのほかである。

 

●ところが第二価格オークションのもとでは、勝者となった人の入札額がかりにもっと低かったとしても、それが第二価格より高いかぎり、支払額は同じである。正直に最大支払意思額を入札額にしておくのは、勝つチャンスを増やすうえ、支払額を上げない。

知らないところで実は使われている第二価格方式

第一価格オークションと比べると、第二価格オークションは有名な方式ではない。しかしインターネットの広告枠が、この方式(やその変形版)で売られていることは多い。人がウェブサイトを訪れるたびに、「どの広告を映すか」のオークションが、オンライン上のプログラムによって密かに行われていることも多い。知らないところで第二価格オークションは案外と使われているのだ。

 

売り手としては、価格が「第二価格」なぶん、収益が減るような気がするかもしれない。しかしそう考えるのは間違いである。そもそも第一価格オークションのもとで、入札者がつける入札額は、最大支払意思額よりずっと低いことが多いからだ。つまり第一価格といっても、低い入札額のなかの「第一」なのである。

 

一方、第二価格オークションのもとだと、入札者は最大支払意思額をそのまま入札額にするので、その高い入札額のなかの第二価格である。両者のどちらが高いかはケースによるが、「第二だから第一より安い」ということはない。

 

第二価格オークションのもとでは、誰にとっても「最大支払意思額をそのまま入札額にする」ことが行動の明確な指針になる。オークションは一か八かのギャンブルにならず、最大支払意思額が一番高い者が順当に勝つ。

 

実はこの第二価格オークションは、築地市場や美術品オークションで用いられる競り上げ式オークションと、ある意味で同じ方式なのだ。そこで次回は、きわめて優れたオークション方式である、競り上げ式オークションの仕組みを解明していこう。

 

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