お寺の後継者不足が深刻だ。既に住職不在の「空き寺」は1万〜2万に上るとされる。宗教法人としての税制優遇はあるが、それ以外は自由競争に晒されている厳しいサービス業なのだ。しかし、じつは「ビジネス」という側面から捉えると、お寺の持つポテンシャルはかなり高いことが見えてくる。本記事では、スモールM&Aの活用が、後継者不足のお寺を救う可能性について考察する。

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外部承継が進まず、廃業が増加している「お寺」

外部に事業を引き継ぐM&Aは、あらゆる業界で活用されつつあります。一方、M&Aにネガティブなイメージを持つ方々が多いのも事実です。その理由は、業界構造、しがらみ、行政規制、知識不足等…さまざまです。

 

ひとつの分かりやすい事例として、「お寺」を取り上げてみましょう。お寺は深刻な後継者問題を抱えながらも、外部承継が進まずに廃業が増加している典型的な業界です。しかし、お寺の隠れた資産価値に目を向けると、買い手にとって魅力的なM&A対象事業であることが分かります。その可能性を示すことが問題解決の糸口になり、他の業界でも活用できる可能性があります。

 

2017年の「宗教年鑑」(文化庁統計)によれば、お寺は全国に7.4万ほど存在します。日常生活の中で頻繁に見かけるコンビニ数5.5万、調剤薬局数5.7万と比べても、その数の多さに驚きます。とはいえ、年々その数は減少し、既に住職不在の「空き寺」は1万~2万に上ります。その背景には、過疎地域の増加、檀家離れ、葬儀の簡略化、法事の減少、異業種からの葬儀ビジネスへの参入等による収入減少があります。

 

筆者のところにも、数年前からお寺や神社の売却相談が増えてきました。当初は驚きましたが、税制優遇以外は、自由競争に晒されているサービス業なので、当然の流れかもしれません。とはいえ、お寺には素晴らしいポテンシャルがあります。その活用法について具体的な事例をあげてみたいと思います。

外国人観光客に人気の高い「宿坊」

「宿坊」というサービスをご存じでしょうか。元々は参拝者や修行僧向けの宿泊制度でしたが、現在では一般の方々も利用が可能です。和歌山県の高野山には、100を超える寺院がありますが、約半数は宿泊可能な観光寺です。首都圏でも青梅の御岳山に20を超える宿坊が軒を連ねます。非日常的な体験オプションもあり、外国人観光客に人気が高いのも納得がいきます。

 

宿坊を新たに開設する場合には、「旅館営業」または「簡易宿所営業」の許可が必要です。Airbnbを代表とする民泊は、宿泊数や広さ等で規制を受けますが、宿坊に関しては行政の対応も比較的緩やかなようです。旅館業法は昭和に施行されましたが、宿坊は平安時代から続く制度です。お寺側からすれば、きちんと安全基準を満たしていれば、文句を言われる筋合いはないというのが本音かもしれません。

 

江戸時代に普及した「寺小屋」は、読み書き算術の普及面で大きな役割を担いました。お寺は教育の場としても活用されていたのです。現在でも、習字教室、そろばん塾、保育園、教育系フランチャイズ教室などで利用されているケースも見受けられます。静粛で厳かな雰囲気の中での学習効果は高いに違いありません。「断食道場」というサービスも近年人気が高まっています。参加者は、経営者や第一線で働く若い女性が多く、リピーターが多いのも特徴です。断食道場は食事を出さず、過剰サービスも不要ですので、高利益率ビジネスと考えられます。

 

スティーブ・ジョブスは生前、お忍びで家族と共に、京都の西芳寺(苔寺)をよく訪れていたそうです。寺院でメディテーション、つまり「瞑想」をしながら、事業戦略を練っていたのかもしれません。なぜか、世界で活躍するビジネス界のリーダーは瞑想好きです。その他にも「ヨガ教室」、お見合いの場としての「寺コン」、そして「お祭り」「フリーマーケット」「週末市場」など、地域住民のための憩いの場として活用されることも増えてきています。

 

このような動きは、宗派によっては「本筋ではない」と批判されることもあります。また、檀家制度が強いお寺では調整も大変と聞きます。どこの業界でもそうですが、内部からの変化は起こしにくいものなのです。お寺を取り仕切る住職は、近代まで世襲制ではありませんでした。それもそのはずで、明治時代まで多くの宗派では妻帯を認めていませんでした。お寺における親族内承継の歴史は浅く、わずか100年程度です。外部承継に戻るのは自然の流れかもしれません。

 

M&Aの本質は外部の「視点・発想・資力」を持つ異端児による業務改革とも言えます。M&Aがより身近になり、業界問題を解決するポジティブな選択肢として活用されることを願います。

 

 

齋藤 由紀夫

株式会社つながりバンク 代表取締役社長

 

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