激しいめまいが起こり、吐き気や嘔吐を伴う前庭神経炎
前庭神経炎も、突然、立っていられないぐらい激しい回転性のめまいを引き起こす病気です。そのめまいは、頭を動かしたときだけでなく、じっとしていても続きます。耳鳴りや難聴は起こりませんが、吐き気や嘔吐を伴います。発作は突然起こり、数日間続くのが特徴です。その間は起き上がることができず、食事を取ることが困難になります。
めまいが起こるのはたいてい一度だけで、治まってしまってから何度もくり返すようなことはほとんどありません。ただし、激しい発作が治まってからも、しばらく軽いめまいが数カ月続くことがあります。
前庭神経炎は、文字どおり前庭神経に起こる炎症で、それによって平衡感覚に関わる信号を送る機能が障害されてめまいが起こると考えられています。カゼをひいた後に起こることが多いので、原因はウイルス感染だとする説が有力です。しかし、はっきりとわかっているわけではありません。
前庭神経炎の発作時は、安静にして薬物療法で症状を緩和します。激しい発作の場合には、入院していただく患者さんもいます。その後、軽いめまいが続く間は症状に応じた薬を服用します。
めまいや頭痛で最も気をつけたいのは「脳卒中」
めまいや頭痛が起こっているとき、最も気をつけたい脳血管のトラブルといえば「脳卒中」です。脳卒中は、脳の血管の一部が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管の一部が破れて出血する「脳出血」に分けられます。大きな脳梗塞や脳出血が起こると、最悪の場合、死に至る危険があるのはご存じのとおりです。
①小脳梗塞
めまいの原因のうち、脳卒中が占める割合は微々たるものですが、診断をする際に、「脳卒中でないこと」をまず見分けることは重要です。
脳梗塞と脳出血は、いずれも怖い急性疾患ですが、現代人に多いのは脳梗塞のほうです。すぐ命に関わるような脳梗塞は、意識を失ったり手足のしびれを訴えたりするので、一般の方でも「脳卒中の発作かもしれない」とわかります。ですが、すぐにはわからないような小さな脳梗塞はもっとひんぱんに起こっています。
小脳梗塞は、複数の場所にできたり、くり返したりしているうちに大きな発作と同様の障害をもたらす場合があります。ですから、甘く見ることはできません。特に年配の方ですと、そうした「小脳梗塞」が起こりやすいので、私も常に意識して診察し、疑いがあるときには必ずMRI検査を行うようにしています。
②脳動脈瘤
また、脳出血の予防という観点からは、「脳動脈瘤」がないかも、常に気をつけている点です。「脳動脈瘤」というのは、動脈にできるコブです。脳にはたくさんの動脈がありますが、その壁の一部が弱くなると、そこが小さな風船のようにふくらんで、血管にコブを形成することがあります。
当然、このコブが破裂すると脳出血を起こしてしまいます。小さな脳動脈瘤が、すぐに出血などのトラブルを起こすことは通常ありませんが、検査をして脳動脈瘤が見つかった場合は、その後の経過に気をつける必要があります。その場合は、脳外科に経過観察を依頼しています。
ちなみに、脳動脈瘤が最もできやすいのは、脳底部と呼ばれる脳の下のほうです。脳の下部には、脳に血液を送り届けている重要な動脈が通っています。ここの血流が一時的に不足すると、「椎骨脳底動脈循環不全」といって、めまいの原因のひとつになります。
こうした動脈の血流不足が、めまいやふらつきにつながるのは、前庭神経の信号を受け取る脳幹の働きが悪くなるからです。
これ以外に、貧血や、急激な血圧の変動(低血圧、高血圧)、心臓のトラブルである不整脈(脈拍の乱れ)などがめまいの原因となり得ます。こうした脳血管のトラブルは、めまいの原因になると同時に、頭痛にも深く関わっています。これについては、また後ほど詳しく述べたいと思います。
年配の方に起こりやすい「脳腫瘍」と耳鳴りの関係性
③聴神経腫瘍
そして、もうひとつ、めまいの原因となる怖い脳のトラブルがあります。「脳腫瘍」です。そのうち、めまいや耳鳴りの原因となることが多いのは、前庭神経に発生することが多い「聴神経腫瘍」で、脳腫瘍全体のおよそ10%を占めています。
聴神経腫瘍は良性ですが、腫瘍ができた側にやっかいな難聴や耳鳴りを引き起こします。めまい・耳鳴りを診断する際、特に年配の方の場合には、私も以上3つの病気(小脳梗塞、脳動脈瘤、聴神経腫瘍)にはよく注意するようにしています。
以上のように、めまい・耳鳴りの原因となる病気はいろいろありますが、特に危険なのは、脳由来の症状で、中には見抜くのが難しいものもあります。
めまい・耳鳴りには自己診断で対処するのではなく、まずは専門医を受診して、診断や検査を受けると大きな安心材料になるはずです。