前回は、金融商品でリスク分散は可能かどうかを解説しました。今回は、投資対象としての国内不動産について考察します。

先細りは確実!? 日本国内の不動産需要

前回の続きです。

 

総合すると、不動産を絡めた運用が最も低リスクで安定的なリターンを狙えるものだと私は考えています。

 

なぜか? まず、日本の不動産市場を見ていきましょう。

 

私は30年以上も前から不動産業界に身を置いています。それこそバブル崩壊も経験しました。崩壊までの日本は「わが世の春」を謳歌していました。株式も不動産も買えば翌日には値上がりしていた時代です。企業は国内だけの投資に飽き足らず、続々と海外企業を買収していきました。1989年の三菱地所によるロックフェラーセンター買収が、その最たる例です。そのほかにもブリヂストンが米ファイアストンを傘下に入れ、ソニーはコロンビア・ピクチャーズを買収、松下電器(現パナソニック)もユニバーサル・ピクチャーズなどを傘下に持つMCA(ミュージック・コーポレーション・オブ・アメリカ)を買収するなど、日本企業は海外企業をまさに「買い漁った」のです。

 

 

1990年にバブルが崩壊すると、経済は一気に逆回転を起こしました。そのダメージの大きさから、日本は〝失われた20年〞を経験することになります。2008年のリーマンショックを受けて、バブル期には4万円近くまで上昇した日経平均株価は7000円を割りました。昨今、アベノミクスにより2万円前後まで回復してきていますが、いまだ過去最高値と比較すると半値の水準にあるのです。

 

バブル崩壊で同様にダメージを受けたのが不動産市場でした。1983年から1991年にかけて日本の公示地価は10年弱で約5倍にまで高騰しましたが、バブルが崩壊すると、その高騰がウソだったかのように下げ続けます。以後、30年近い月日が経過しましたが、公示地価は、ピーク時の1991年と比較して、いまだに4分の1程度です。株式と比較すれば、〝伸びしろ〞がありそうですが、残念ながら都心などの一部を除いて、日本の不動産市況が一気に好転することは期待しにくいでしょう。

 

なぜなら、今後、日本国内の不動産需要は減少していくと予想されるからです。最大の原因は人口減少です。総務省の人口推計によれば、6年連続で減少し(2016年10月時点)、ピークの2008年から110万人も減っています。さらに、この人口減少は年を追うごとに進むといわれているのです。

 

住宅の供給も、2020年東京オリンピック前の2018〜2019年にピークを迎えると見られていますが、現状でも需給のバランスは大きく崩れており、すでに空室率は20%近くに達しています。この空室率は右肩上がりであり、今後も上昇を続ける可能性が濃厚なのです。このような環境では、不動産投資で想定どおりのリターンを得るのはなかなか難しいでしょう。

賃貸住宅を建てても、5〜6年で競争力は低下!?

投資という観点でいえば、日本の不動産業界ならではの事情も見逃せません。本書『戦略的アメリカ不動産投資』で想定するのは、オフィスビルや商業物件などへの投資ではなく、一般的な居住用賃貸住宅(戸建て、区分や一棟所有のアパート・マンション等)への投資ですが、日本では、新築物件は買って人が住んだ途端に〝中古〞の扱いとなり、物件価格が低下するのが一般的です。特に木造の場合、首都圏の好立地な物件を除いて、築20年もすれば建物の価値はゼロ同然になる可能性もあります。どんなに収益を生み出す物件であっても、築年数が価格に直結してしまうため、多くの収益不動産のオーナーは賃料収入でいかに早く投資金額を回収するか、ということしか考えられない状況にあります。

 

 

実際、賃貸住宅を建てたとしても、その物件は5〜6年もすれば競争力が低下します。自分の物件のセキュリティシステムや住宅設備が古くなる一方で、最新のシステムを導入した新たな物件が近くに建てられてしまったら、家賃を下げることでしか客付けできなくなってしまうのです。年々家賃の引き下げ圧力が強まるなかで、泣く泣く投資金額の回収計画を大幅に見直すというサラリーマン大家さんも少なくありません。

 

もちろん、自宅の購入であればこのようなリターンを考える必要はなく、物件価格の下落にもそれほど深刻になる理由はないでしょう。しかし、何らかの事情で売りに出さざるを得なくなったときに、購入価格と同水準以上の価格で売れる可能性は非常に低いといえます。それほど、日本の不動産市場は「レッドオーシャン(競争の激しい既存市場)」なのです。物件の目利きに優れた「プロ」と同じ土俵で戦うのはかなりの覚悟が必要になります。

本連載は、2017年8月31日刊行の書籍『戦略的アメリカ不動産投資』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

戦略的アメリカ不動産投資

戦略的アメリカ不動産投資

井上 由美子

幻冬舎メディアコンサルティング

日本人の多くが将来の不安を打ち消すために、せっせと預貯金に励んでいます。今の日本は、将来に対する過度な悲観論がデフレマインドを助長し、本来あるべき経済の成長を押しとどめているように感じています。国の健全な経済の…

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