納税を多くする会社は外からの信頼が厚くなる
ある程度の規模の会社になってくれば、節税ばかりを追求するのではなく、後者の「純資産重視」タイプに切り替えていくことを考えるべきだと思います。
これまで多くの企業のアドバイザーやコンサルタントをしてきた経験からいえるのは、過度に税金を怖がらないで、「法人税はコスト」と割り切った会社のほうが経営上もうまくいっている例が多いということです。
たとえば、こんな例がありました。ある中小規模の会社で、社長が節税を考えて自分や役員への報酬をたくさん支給していました。そのおかげで法人税は毎年ほとんどゼロでした。ところが、私が経理に関わるようになり、改めて計算してみると、社長や役員個人の所得税がとても高額になっていたのです。
法人税を小さくしても、個人の所得税が大きくなっていては、まったく節税になっていません。それどころか、会社の決算が芳しくないために銀行からの信用もなく、融資を受けることも難しい状態になっていました。社長に「それは間違った節税の仕方ですよ」と説明し、「法人税はコストのようなものですから」と順序立ててお話しして考え方を変えてもらいました。
ちなみに、法人税と住民税は税金を支払っても所得には無関係ですが、事業税はその納税額分を所得から差し引けます。まさに税務上もコストになります。そうして経理を一から見直すことで、ようやく経営が上向きに進んでいったということがありました。
会社の信用は「その会社が儲かっているかどうか」で判断されます。その1つの基準が法人税等の「納税額」です。納税をたくさんしている会社は儲かっている証拠とみなされ、外からの信頼が厚くなります。ですから、納税はしないといけないのです。むしろ、納税できることを喜ぶべきでしょう。
だからといって納税をジャンジャンしろというのではありません。無駄に納税する必要はどこにもありません。「納税はして当然のもの。ただし、できる節税はする」というのが、あるべき経営者のスタンスだろうと思います。
健全な会計のもとにしか健全な会社は育たない
将来的に大増税が不可避である今、中小企業は特に税務対策に力を入れ、足元を固め直さなくてはなりません。そのためにも正しい会計を行い、税務当局から無用な疑念を抱かれることのないようにしたいものです。
税務署にはそれぞれ徴収額のノルマがあって、税務職員たちは各自に課されたノルマを達成しようと使命感に燃えています。表現があまり良くないかもしれませんが、分かりやすく言ってしまえば、「たくさん税金が回収できそうな会社」「突けばボロが出て、課税額が増えそうな会社」「こちらが強い態度で当たれば、折れて税金を払ってくれそうな会社」というのがどうしても標的になりやすくなります。
さらに具体的にいえば、利益が多く出ているにもかかわらず、いつも納税額が少ない会社は要注意です。「決算書に不正がありそう」と疑われ、隅から隅まで調べられるからです。決算書に不備やミスが多い会社も危険です。「突っ込みどころが多そう」と思われ、粗探しをされてしまいます。
会計や税の専門家がおらず、一般の経理職員だけで税務調査に対応しなければならない会社も気をつけてください。税務職員が投げかける専門的な質問にしどろもどろになってしまったり、反論の余地なく言いくるめられてしまったりすることがあるからです。
実際には不正などするつもりがなく、ウソの記載をしたつもりもないのに、税務調査で引っかかって申告をし直さなくてはならなくなった会社や、当初の納税額より大幅に課税が増えてしまい困窮した会社、虚偽記載とみなされてペナルティーを科された会社などが世の中にはたくさんあります。
税務職員も仕事ですから調査や徴収は当然の仕事です。仮に税務調査に引っかかったとしても、不運がったり、税務署を恨んだりするのは筋違いというものでしょう。それよりも、こちらの勘違いや勉強不足、書類の不備や対応の甘さなどを反省し、スキのない決算書や事業計画書を作成することが大事だと思います。
きちんとした決算書や事業計画書を作っておけば、税務調査で質問を受けても落ち着いて対応でき、自社の正しさを堂々と主張できます。共に決算書を作り、税務調査に臨んでくれる会計上のパートナーがいれば、徹底的に当局と議論し合うことも可能です。