中国地元紙で最も頻繁に報道される話題の1つになった「雄安新区」。本連載では、計画の概要と進捗状況、中国社会が計画をどう受け止めているのかを見ていくとともに、政治経済的意味合いは何かを中国内外の中国語媒体を通じて探る。今回は「雄安新区計画」の進捗状況を見ていく。

「千年大計」だが、人々の最大の関心は不動産

「30数年前、深圳特区が指定された時には、人々はそこでどうやって一旗揚げるかを考えて眠れない日々が続いた。今回は、雄安でいかに不動産投機をして儲けるかを考えて眠れない人が増えた。」

 

「雄安出身のある男性は北京の大学を卒業し北京の国有大企業に就職した。懸命に働いて資金を貯め、雄安の生家200㎡も売却して、北京で53㎡のアパートをやっと購入、頭金支払いをようやく完了して、北京に根を張る準備ができた直後、会社全体が雄安新区に移転するとの通知を受け取った。」

 

「30年前、深圳戸籍を持っていた人、20年前、上海浦東の戸籍を持っていた人は皆、今大きな富を築いている。しかし本年(2017年)、そうでなかった人にも朗報が届いた。雄安に3亩(ムー)(中国の広さの単位で3亩は約2000㎡)の土地を持っていれば、直ちに裕福になれる! 本年の一番励まされる話は、居眠りから目が覚めたら雄安の住民になっていたということだ。土地を持っていなければ、急いで雄安のボスに近づくか、雄安出身の女性に婿入りすればよいだけだ。」

 

(男性と、男性が求婚している女性の父親とのやりとり)「(父親)金はあるのか、(男)ありません、(父親)車は持っているのか、(男)ありません、(父親)何もなくて、まだ俺の娘と結婚したいと言うのか、(男)あの・・・私は雄安出身で・・・(父親)外は風が冷たい。中で話そう。」

 

習近平政権は計画を「千年大計」「国家大事」と位置付け宣伝しているが、上記のジョークに見られるように、人々の関心はもっぱら不動産や金儲けにあるようだ。実際、新区発表の影響は直ちに不動産市場に現れ、発表後一晩で近辺の不動産価格が10倍に跳ね上がった(1㎡3000元が3万元に上昇)と言われた。このため、発表翌日から、同地域の全ての不動産売買が制限された。

 

 

北京市と河北省が協力強化をうたった協定を締結

発表直後、雄安地区のホテル内に準備作業委と臨時党委が設置され、ホテルの出入りが厳重にチェックされる中、作業が開始された。臨時党委書記には、かつて天津濱海新区を担当した経験を持つ袁桐利河北省副省長が任命された。

 

その後100日を経過した時点で、趙克志河北省党委書記が貴州党委書記時代、同省党委常務委員だった陳剛氏が河北省党委常委に移ったことに伴い、臨時党委書記も同氏に交替した。また新区の開発建設の管理調整にあたるため、河北省の出先機関として新区工作(活動)委員会と新区管理委員会が発足、陳剛臨時党委書記が両委の主任を兼務、新区管理委員会は中央の国務院と京津冀構想の党指導小組(小グループ)弁公室の指揮を受ける体制を整えた。また党政弁公室(総合調整を担当)、党群工作部(党務、党人事等)、規画建設局(建設計画策定)等、党内に7つの内部管理部門が立ち上げられた(17年7月9日付新京報)。

 

17年7月、インフラ建設の実働部隊として、河北省が100%出資して雄安建設投資集団(資本金100億元)を設立、同集団は本年3月までに、インフラ建設、デジタル都市科技、生態建設投資、公共サービス管理、投資管理、都市発展投資の6分野毎に専門の会社を設立した。また昨年8月には、北京市と河北省が雄安と北京間の交通インフラ整備や、人材交流促進等8つの領域での協力強化をうたった協定を締結している。協定の主な合意内容は以下の通り(17年8月22日付環球網他)。

 

①北京中関村のハイテク企業の雄安への移転を奨励し「雄安新区中関村科技園」を建設(その後12月末、新区管理委と中関村科技園管理委がこのための協定を締結)

 

②北京市管轄の国有企業が雄安の都市インフラ建設を支援

 

③京津冀協同発展基金(500億元規模)の下に雄安イノベーション専用基金を設ける

 

④北京・雄安間を30分以内で結ぶ高速鉄道(北雄城際鉄路)の建設。全長92.4㎞、総投資額約335億元。うち北京中心と北京新空港間が新空港開業の19年9月に合わせ開通、また新空港と雄安間の建設が18年5月着工、20年4月完了予定。北京市内新空港間時速250㎞、新空港雄安間は350㎞

 

⑤京津冀構想の下ですでに行われている毎年100名の幹部相互派遣を拡大

 

[図表1]北京・雄安、北京・通州間鉄道路線

(注)図中、「际」は「際」、「机场」は「空港」。
(出所)2月28日付快科技
(注)図中、「际」は「際」、「机场」は「空港」。
(出所)2月28日付快科技

 

 

政策上の優遇措置が企業の新区進出を後押し

また、新区管理委は17年9月、アリババ、騰訊(テンセント)、百度、京東金融等48企業に新区への第1期進出許可を与えた。全てハイテク・情報関連で、中央国有企業が19、民営企業12、地域別では北京、深圳の企業が各々24,13となっている(17年9月28日付第一財経)。

 

12月には、中関村所在の省エネ・環境保護、智慧都市(スマートシティ)サービス関連12企業が雄安新区と戦略的協力協定を締結し、雄安中関村科技園への進出を検討していることも伝えられた(17年12月29日付第一財経)。18年3月には、銀行支店第1弾として、工商、建設、農業、中国の4大商業銀行に開業許可が与えられた。本年4月時点、100余のハイテク企業がすでに開業許可を得、登記済という。また河北省は17年12月、「河北省農業供給側構造改革3年行動計画(2018〜20年)」を発表し、その中で雄安新区を「農業科学技術イノベーション新基地」としても位置付けていくとしている。

 

これら企業の新区進出を後押ししているのが政策上の優遇措置だ。特に、雄县、容城、安新の3県は各々幾つかの「創業インキュベーター園区」を設け、資金面、またオフィスや住居の賃貸料補助を集中的に行うこと、少なくとも100名の「優秀創業人材」を育成するための支援計画を発表していることが大きい(2月20日付第一財経)。

 

昨年11月、新区のインフラ建設の「第1標」、最初のモデルとされる「雄安市民サービスセンター」建設が着工、投資額8億元、敷地24.24ヘクタール、総建設面積10万㎡で、新区関連の政務サービス提供、計画展示、会議、企業のオフィス等に使用される予定。その建設速度は通常の2〜3倍と言われ、本年3月に骨格がほぼ完成。環境やハイテクに配慮した点と合わせ、当局は「雄安速度」「雄安質量」のモデルケースになると宣伝している(4月1日付第一財経他)。

 

[図表2]雄安市民サービスセンター

(注)「规划展示中心」は「計画展示センター」、「企业临时办公」は「企業臨時オフィス」、「周转用房」は「立ち退き住民のための一時住居」、「生活用房」は「生活用住居」、「政务服务中心」は「政務サービスセンター」、「会议培训中心は「会議訓練センター」、「集团」は「集団」。
(出所)2017年12月20日付雄安新区網
(注)「规划展示中心」は「計画展示センター」、「企业临时办公」は「企業臨時オフィス」、「周转用房」は「立ち退き住民のための一時住居」、「生活用房」は「生活用住居」、「政务服务中心」は「政務サービスセンター」、「会议培训中心は「会議訓練センター」、「集团」は「集団」。
(出所)2017年12月20日付雄安新区網

 

ただ、肝心の土地の収用、住民の立ち退きとそれに伴う補償をどうしていくのか、詳細はなお明らかでない。17年9月、管理委が雄县、安新、容城3県の村で、1000((約67万㎡)を対象に、240世帯の農民と収用・補償措置について暫定的に合意したこと、また、農民は一過性の補償だけでなく、毎年収益分配を受け取ることになるとの発表があったと伝えられている(17年9月10日付北京青年報、10月15日付第一財経)。

 

収益分配によって、新区の発展とともに農民も長期的に潤うことが強調されている。しかし、農地収用が今後順調に進むかどうかはなお不透明だ。「十分な補償がある限り文句はない」との農民の声がある一方、本年春節前、容城で100㎢の区域を起点に農地収用、農民立ち退きを進めようとしたが、政府は一時的な引っ越し費用しか支払おうとしなかったため農民が反発、話が頓挫しているといったケースも聞こえる(3月31日付多維新聞)。

 

雄安で生じ得る不動産問題に関連し、新区管理委は17年9月、ブロックチェーン(区塊鎖)を利用して関連不動産情報を集約し「デジタル雄安」を目指すことを掲げたが、18年2月、中国初のブロックチェーン平台(プラットフォーム)の運用が政府主導で開始されたと伝えられている。これにより、不動産、貸主、借主の情報の一元化、個人情報保護が確保され、中国ではあまり発達してこなかった不動産賃貸市場の育成、さらにはいわゆる「土地財政」からの脱却が目指されているという(2月14日付北京青年報)。

 

過去、開発区等を設置するたびに周辺の不動産価格が制御できないまでに高騰し、公共財政が過度に不動産に依存する「土地財政」が進むという問題が繰り返された。これを避けるため、雄安では住宅(購入ではなく)賃貸を基本に、自発的社会貢献や納税状況等を考慮して各個人に与えられるポイント(積分)制を基に、まずは雄安の当面の発展に貢献する者に住宅賃貸、長期的発展に貢献する者には購入も認めていくスキームが検討されている(2月11日付華夏時報)。

 

 

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