中国地元紙で最も頻繁に報道される話題の1つになった「雄安新区」。本連載では、計画の概要と進捗状況、中国社会が計画をどう受け止めているのかを見ていくとともに、政治経済的意味合いは何かを中国内外の中国語媒体を通じて探る。今回は、北京一極集中を緩和できるかを検証していく。

北京から出ていかざるを得ない人々とは?

地元サイト(17年5月17日付捜狐他)は、「5つの範疇の人々が北京から出ていかざるを得なくなる」とする論評を掲載、それによると、計画実施後、北京は政治、文化、国際交流、科学技術革新の4つの機能のセンターとなる。そのエリアは故宮を中心に周回する三環路(全長48㎞)内に限られ、周辺は緑化対象となり、約5年後、上記機能に直接関係しない以下のような人々は、雄安、通州区(北京市東南部)等に移る必要が出てくる。

 

①北京市政府が通州に移転する結果、市政府や国関連の多くの機関・企業の職員。

 

②北京でのビジネスが成り立たなくなることから、大中小企業、各種の北京所在管理部門。ホテル、空港、遊戯施設等サービス業の従業員。

 

③北京で起業するため地方から北京に出てきた人々(北漂族)。これまでも、北京で起業に成功した人はごく一部。今後さらに、北京は「夢を実現する楽園」ではなくなる。

 

④教育関連従事者。すでに北京市管轄の北京城市学院、北京建築大学、北京工商大学、北京電影大学等が通州等への移転準備を開始。

 

⑤「老北京」「4無」の人々。すなわち、古くから二環路(全長33km)内に居住(故宮周辺にあった胡同を指すと思われる)していた人々の8割はすでに四環路(全長65km)の外に移転したが、残る2割も将来移転。また、専門、特徴、能力、安定収入の何れも持たない人々。

 

論評は、これらの人々は当局から北京から離れることを強制されるわけではないだろうが、上記4機能に合致しない単位(組織、部門)は北京での登録や登記を認められなくなり、またすでに北京に所在する単位も、住居やオフィス費用は高いにもかかわらず、北京でできることは少なくなってくるため、結局北京を離れることになるとしている。

 

 

北京の「政治的資源搾取力」が強化される!?

北京を中心とする河北地域は大気・水質汚染が深刻化、鉄鋼産業依存が高い「鉄鋼大省」で過剰生産能力を抱える。計画が北京一極集中を緩和し、こうした問題の是正を図ることができるか、疑問視する声が挙がっている。

 

北京や河北は元来、生態系や文化面で「江南」と呼ばれる長江南岸地域に劣るが、政治的に北京を首都と定め、大量の資源を投入して産業を発展させてきた。その意味で、同じ大都市でも、北京は上海や深圳などと大きく異なる。北京に近い河北の地域に新たに巨大な資源を投入すると、こうした北京の「政治的資源搾取力」がさらに強化され、周辺の生態・文化環境が一層悪化、すでに問題の多い北京の地域管理能力が一層深刻化するおそれがあるという指摘だ(17年4月4日付自由亜洲電台他)。

 

大規模開発で雄安新区に一時的に大量の雇用機会が発生しようが、これが必ずしも北京への人口流入圧力を緩和することにはならず、むしろ、新区での職を求めて、まずは情報が集中し、インフラの整った北京に流入しようとする人口が増加するおそれもある。上述「北京から離れざるを得ない人々が増える」とする論評は、まさに当局がこうした懸念を有していることの裏返しでもある。

 

また、新区は先端産業集積のため高技術人材を求めるとされているが、本来、河北より環境の良い東北部などで、地元に止まり地域経済の発展に貢献すべき人材の流出傾向が加速するおそれがある。そうなると、計画は他地域に不利な影響を及ぼすことにもなる。

 

北京と雄安新区との関係をどう位置付けていくのかも不明瞭だ。特に京津冀構想で中心的役割を果たすと見られていた北京市通州区(北京中心と通州は、すでに国が確定させた最初の大都市近郊鉄道整備プロジェクト、副中心線鉄道が17年末に開通、所要時間約1時間)は「北京の副中心」、雄安は「首都の副中心」として、両者が「新北京の両翼」になるといった見方があるが(17年4月3日付渤海新聞他)、その趣旨は判然としない。また17年5月、北京市は「北京市総体規画案(2016〜30年)」を、審査・許可を得るため、国務院に提出したが、その中で「一核一主一副、両軸多点一区」と称する構想を示した(注)。

 

地元各紙は一斉に「一区」は雄安新区を指し、北京市が新区を市計画に組み込んだと報じたが、北京市は直ちに報道を否定、「一区」とは市管轄の門頭溝、平谷、懐柔、密雲、延慶、昌平、房山の7つの県・区を「生態涵養区」とすることだと説明する出来事があった。なおその後9月、中央政府国務院の同意を経て公表された最終的な「総体規画」(最終規画では対象期間が2016〜35年に変わっている)では、20年以降の北京常住人口を2300万人以内にすること、また都市建設用地を20年2860㎡、35年2760㎡へと減少させていくことなど、北京の都市としての規模を厳格に抑え、北京の副中心(すなわち通州)と雄安を北京の新たな両翼と位置付け、雄安建設を全面的に支持することがうたわれた(17年9月30日付新華網)。

 

(注)担当部局の北京市規画国土委員会によると、総体規画は北京市区域全体の空間をどのように位置付けていくかを示したもので、「一区」が「生態涵養区」の他、「一核」は「首都機能を有する核心区」、「一主」は「中心都市区」、「一副」は「北京市の副中心」、「両軸」は「中軸線とその延長線、および長安街とその延長線」、「多点」は「平原地区に位置する新都市」を指すとされている(17年5月20日付新京報他)。

 

 

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