2017年の流行語にも選出された「雄安新区」
中国共産党中央委員会と国務院(内閣に相当)が2017年4月1日、「河北雄安新区設立に関する通知」を発表してから1年が経過した。発表時、エイプリル・フール(愚人節)で週末夜の発表だったこともあり、中国内で「横空出世(ハンコンチューシー)」、突然出現した巨大物と驚きを持って受け止められた。17年10月に開催された5年に一度の党大会での習近平国家主席演説の中で、「北京の非首都機能分散を‘牛鼻子(ニュービーズ)’、かなめとして、北京、天津、河北の協同発展を推進し、高水準の雄安新区を建設していく」と言及され、18年3月全人代での李克強首相による政府工作(活動)報告でも、18年政府活動建議の中の「地域協調発展推進」において、「高水準の雄安新区建設」がうたわれた。
中国は改革開放の過程で、政策目的に応じて、深圳を始めとする多くの経済特区、新区、開発区、ハイテク(高新)区、自由貿易区を設立してきた(注)。新区は上海浦東、重慶両江が代表的で、雄安を含め19か所となった。成長の核として地域の経済発展を促し、またその発展の態様を改変することを企図したものだ。
発表後しばらくの間、中国地元紙で最も頻繁に報道される話題の1つになり、17年末に北京語言大学が選び、人民日報上で発表された「17年中国メディア10大熱詞(流行語)」にも、「19党大」や、その党大会で習主席が言及した「新時代」などと並んで、「雄安新区」もランクインした。その後計画はどう進捗しているのか、中国社会は計画をどう受け止めているのか、その政治経済的意味合いは何かを中国内外の中国語媒体を通じて探る。
(注)特区、開発区、新区の区別は以下の通り(2017年4月15日付新華網等)
経済特区:経済の改革開放初期(80年代初)、試験的に改革を推進するための拠点として、深圳、珠海等に設立。現在7特区。特区内では特有の政策が実行され、相対的に独立した経済体。
経済技術開発区:改革開放の進展に伴い、80年代中期から設立。各地域の産業の発展状況に着目し、異なる産業間の補完、産業集積による競争力強化を目的に設立。現在219区。進出企業への用地取得や税制面での優遇措置が特色。
高新技術産業開発区:ハイテク産業育成初期の段階では政府の関与が不可欠との認識の下、どの地域にどういったハイテク産業を重点的に育成すべきかの詳細な方針を政府が策定。現在145区あり、中関村科技園が代表的。経済技術開発区同様の各種優遇措置。
新区:正式には国家級新区と呼ばれ、政府による行政区域調整上の措置のひとつで、中央政府が許可し、対応する一定の政策を伴う。地理的範囲は比較的狭く(概ね500〜2000k㎡)、通常市内の一定区域。新区の建設を通じて、周辺地域全体の発展態様の改変を目指す。上海浦東(1992年指定)、天津濱海(2006年)、重慶両江(2010年)が代表的で、その他の大半は2014年以降に指定。現在、雄安を含め19区。
北京、天津を結ぶトライアングル
計画は北京と天津を三角形で結ぶ、両市の南部に隣接する河北省の雄县、安新、容城の3県(何れも保定市管轄)で構成される地域で、当初約100㎢、中期200㎢、将来的に2000㎢を新たに開発、非首都機能を分散し、北京への一極集中を緩和することを主たる目的にしている。京津冀(ジンジンジー)一体化構想(2014年、習近平体制下で打ち出された京津冀、つまり、北京、天津、河北省、略称‘冀’の一体化構想)は江沢民元主席に近い張高麗党常務委員(当時、元天津党委書記)が担当していたが、習主席は構想が一向に進まないことに大きな不満を持っていたとされる(17年4月4日付大紀元)。計画は構想を別の形で、習主導で推し進めようとしたものとの見方もできる。
現行第13次5ヶ年計画最終年の2020年までに100〜200㎢範囲の幹線交通網の整備など基本的輪郭を整え、30年の完成を目指す。初期投資額は浙江の同規模国家級産業団地の例から少なくとも5000億元、うちかなりが官民パートナーシップ(PPP)になると見られている(17年5月4日付証券日報)、また、中国建銀投資会社「投資発展報告2018」(本年4月発表)では、初期のインフラ投資2000億元以上、今後20年間で1兆元を超えると見ている。
習政権は「深圳経済特区、上海浦東新区に続く全国的意義を持つ新区」「国家大事」「千年大計」として、雄安新区に高い政策優先順位を与えている。深圳は1979年鄧小平、浦東は92年江沢民によって、各々特区、新区に指定された。深圳の経済規模は指定時1.79億元から16年1.95兆元、浦東は60.2億元(上海全体の8.1%)から8732億元(同31.8%)に拡大、雄安新区も同様の急成長が期待されている。
[図表1]
[図表2]