「滞納の常習者」の特徴とは?
「敷金・礼金ゼロ」の、いわゆる「ゼロゼロ物件」というものがあります。
家主さんにとってはお得感がありませんが、賃借人(部屋を借りる人)にとっては初期費用を安くできるので好都合です。しかし、家主さんにとっては困ったケースがあります。
ここでご紹介するのは、そんな困ったケースのご相談です。
賃借人は、入居から一度も家賃を支払っていません。
この物件は2か月のフリーレント(一定期間、家賃が発生しないこと)付き。しかもゼロゼロ物件でした。滞納当初は、「家賃入金のスタート時期がわからないのかな」と思い、督促状(とくそくじょう)に「○月○日でフリーレントが終了し、家賃が発生しておりますので」と記載していたそうです。それでもなお、振込みがありません。
入居から5か月、いくら督促をしても反応がなかったので、家主さんは、私のところへ明け渡し手続きのご依頼にいらっしゃいました。
入居者の必要書類を確認すると、「あれっ、この名前、どこかで見たことある・・・」と胸騒ぎがしました。
何年も明け渡しの手続きをしていると、同じ滞納者の手続きを担当することがあります。入居直後から家賃の支払いをしない賃借人は、滞納の常習者と思って間違いないので、その場合は、早い段階から現場へ調査に行きます。滞納常習者は、手続きの引き伸ばし策を知っていることがほとんどなので、それを少しでも避けるためです。
内容証明郵便を送った後、すぐに物件へ足を運びました。
チェックすべきは、郵便ポストです。滞納の常習者は、他にも借金がある場合がほとんどだからです。
予想通り、郵便物があふれるほどポストがいっぱいになっていました。実際にこの滞納者のポストには、消費者金融各社からの督促状が数通入っているようです。さらに法律事務所からの封筒も見えました。他にも法的手続きを取られていることが推測できます。また、滞納者の玄関のドアには、ポコポコとへこみがありました。位置やへこみ具合からすると、グー(拳)で殴られたような跡です。おそらく督促に来られた消費者金融の方が、ドアをパンチしたのでしょう・・・。
この状況からすると、金銭的にかなり追いつめられていることがわかるので、手続きを最短で行なわないと、家主さんの負担がどんどん増えていってしまいます。
何度か交渉を試みましたが、滞納者とは接触できませんでした。一方、部屋の明け渡し訴訟の判決が出るまでは、比較的スムーズに進みました。
滞納者が「断行」という業界用語を知っていた理由
明け渡し強制執行の日、執行官が呼び鈴を鳴らすと、本人がドアを開けました。
そして開口一番に出た言葉が、「断行いつ?」でした。
滞納者は「断行」という業界用語を知っていました。
強制執行は、通常2回に分けて行ないます。
1回目は部屋の中に立入って「○月○日○時までに退去しなさい」とアナウンスし、公示書を部屋の目立つ場所に貼ります。これを「催告」と言います。そして公示書で宣言した日時に、部屋に立入り、滞納者の荷物を出し、鍵を換えて終了です。これが「断行」です。
この言葉を知っているということは、何度も経験しているのでしょう。部屋の中には引越してから開けていないと思われる段ボールの箱もありました。さらに・・・滞納者の顔を見て、思い出しました。3年ほど前に、明け渡しの手続きをした相手でした。
最終的に賃借人は、断行の直前に、こう言い残して、任意退去していきました。
「またゼロゼロ物件に引越し決まったからさ」
悲しいことに、滞納者からすると、初期費用が極端に安いゼロゼロ物件は、転居先にもってこいのようです。