様々なITシステムへの投資を続けてきた外資系企業
営業活動には、全社の総力を結集した結果が表れます。その営業現場をITでいかに支援できるかという話を、前回の連載ではしてきました。
会社全体のコンテンツ、あるいはナレッジと言い換えることもできる知的資産を社内で誰でも使えるような環境が、これまではなかなか整いませんでした。現場でのプレゼンテーション力、トーク力を上げることができるツールもありませんでした。
しかしそれ以前に、大手企業であっても全社を視野に入れた情報系ITシステムがきちんと構築されず、情報の整理が意外と行われていませんでした。
外資系企業が、1990年代後半のERPの導入、ナレッジマネジメントの流れ、2000年に入ってからのSFA・CRMの導入と再構築、さらにセールス&マーケティング分野の情報整理と利活用、2000年前半のSEO(インターネット検索エンジン最適化)と後半のSEM(インターネット検索エンジンによるマーケティング)、2010年頃からのマーケティングオートメーションと、様々な投資を行ってきたのと対照的に感じます。
製薬業界では20年ほど前から企業の吸収合併が進みました。国内の企業も例外ではありませんでした。しかしそのほかの業界では、大手といわれる会社の多くが生き残ってきました。代表的なのが電機業界ですが、国際的な競争力を失って存続の危機に瀕するなど、昔日の面影がないと言われているのはご存じの通りです。
ITの導入もこれとよく似た経過をたどっています。最も早く全社的な活用に成功したのは外資を中心とする製薬会社で、金融業界がそれに続き、内資の製造業のIT化の中身はそこから10年ないし15年以上遅れているのではないでしょうか。
私が最初に入社した日本ロシュでは、30年後を見据えて投資をしていると言われていました。1990年には遺伝子に投資をしていたのが何より驚きでした。片や日本の経営者はいかがでしょうか。グローバル企業の経営者と異なり、すぐ目の前に見えるところにしか投資しないという傾向はないでしょうか。
将来の発展を見越した「次の手」が打てない日本企業
製造業だと、ものづくりには目が行っても、iPhoneやiTunesのビジネスモデルのように将来の発展まで見越して次の手を打つという発想がなかなか出てきません。
製薬業界においても私たちの行っていた勉強会で、内資系会社で長く担当を務められてきた人が意外と少なく、ジェネラリストとして育てられている企業が多いために担当交代が頻繁に起こり、何を行うのが正解かを考える前に担当が代わってしまうということが続いています。
これらの結果、日本では一流企業と言われた会社が、時代の変遷についていくことができていません。IT、特に最先端のモバイル分野や情報整理(アーキテクチャ)については旧態依然としたままです。
しかし景気の低迷が続く中でも、全社を挙げてモチベーションを最大化し、変化を加速し、進化し続ける必要があります。縦割り組織を崩して横串を刺して動かなければならないはずです。
ところが私の経験でも、大きな会社に長期間勤務していると、大きな世界観を持たなくてもなんとかなるような気がしてしまいます。その結果自分の保身を第一に考えるようになる人が多く、あえて目立つような行動をしなくなります。これはムラ社会や最近言われているグループシンク(集団で誤った意思決定をすること)にもつながる弊害です。
内資の製造業は、日本のものづくりは最強だという根拠のない優越感から抜け出すことができませんでした。それは今なお変わっていないのかもしれません。でも現実に家電産業は軒並み業績が悪化し、大量リストラ、海外資本への身売り、不正会計による利益の水増しといったマイナス面ばかりが目立ちます。
グローバルな視点からは、競合他社が生産している地域の人件費を考えれば価格競争で太刀打ちできないことはすぐ分かります。