今回は、 M&Aにおける買収理由について、10のパターンを見ていきます。※本連載では、事業承継の選択肢のひとつとして、M&Aの基礎知識を紹介します。

買収の根底にある目的は「時間の購入」!?

M&Aで買収を検討する際に、買い手企業はどんな目的で買収しようと考えているのかピンと来ますか? 買収をする理由を知ることで、売却を検討されている方は準備しましょう。それ以外の方も戦略の一つとして知っておくと便利です。

 

買収の目的でよく言われることですが、買収は時間を買う行為だと言われます。社内で新規事業を作ったり、人を増やし広告を打ちシェアを増やしていく行為も間違ってはいませんが、すでに確立している仕組みを買うほうが早い場合もあります。ソフトバンクや日本電産など、M&Aを駆使し、シェアの拡大や他業種への参入、海外展開などを効率的に行なっている会社もあります。

新規事業の買収は「将来のライバルを潰す」目的も!?

企業買収における10の狙い

 

1.新規事業を買う

新規事業を買うという目的でM&Aをするのは、一般的には大企業に多いとされています。新規事業を買うという目的でM&Aをする際には、その中でも二つに分類できます。

 

一つ目は、純粋に新しい事業が欲しいという理由です。成熟した企業において社内で新規事業を作るというのは中々難しい場合が多いです。物量があってもゼロからイチを作れる人材がいない場合も多いことや、新しいアイデアを許容できない風土が要因として挙げられます。いわゆるイノベーションのジレンマに対する施策としてM&Aが使われるのです。

 

二つ目は、将来のライバルを潰しておくという理由です。Facebookが、WhatsApp・instagramを買収したのもこの理由とされており、最近大型の上場をしたSnapchatにも買収を仕掛けていました。この時、新規事業が実際に上手くいくかも重要ですが、将来の競合になる可能性のある存在を早めに潰しておけるというのは買い手にとって大きな買収理由になります。そして、買収価格も高くなりやすいです。

 

2.人を買う

人身売買のようですが、M&Aにおいては、「人を買う」というのも重要な目的の一つです。アクハイヤー(Acqui-hire)というシリコンバレーで生まれた言葉があります。意味は、「買収する(acquire)」と「雇用する(hire)」を掛け合わせた言葉で、M&Aを通じて経営陣や採用困難な技術者などの有能な人材を獲得することを言います。この目的が主目的の場合、買収後サービスをストップさせて、別なことをさせられたケースもあり、多く議論がされています。シリコンバレーだけでなく、日本でも採用難易度が高いITなどの領域では、実際に起きています。

 

人を買うことによって、専門性(技術力や営業力)、人数規模、オペレーション体制を手に入れることができるのです。

 

3.シェアを買う

業界再編が起きている領域や1社しか残らないようなプラットフォームサービスの場合、この目的でM&Aが行われます。前者だと調剤薬局が激化しており、過去には製薬の卸売業界がM&Aによって再編され寡占になっております。成熟した市場において起きやすい現象です。地方に参入する際なども行われます。

 

4.シナジーを買う

そもそもシナジー効果とは、2社以上の企業を結合することにより、各社単独で生み出しうる価値の合計を上回る価値が生まれる効果のことです。わかりやすい表現をすると、1+1が3にも4にもなるということを言います。シナジーには収益向上のシナジーとコスト削減のシナジーがあります。

 

収益向上のシナジーには、クロスセルできる商材を持っている会社や流通を持っている会社、データ連携をすることにより爆発的に広がる会社などとのM&Aが挙げられます。商流を拡大できたり、顧客単価を上げたりする施策として有効です。

 

コスト削減のシナジーでは、川上企業の垂直統合M&Aが代表的です。自動車会社が部品メーカーを買収するなどが分かりやすいかと思います。もちろん下請け企業を買収するケースもありますが、下請け企業は川上企業に比べて価格交渉力が低い場合が多いため、相対的にシナジー効果は低いと言われています。同業他社を買収した場合でも、仕入れロットが増えることで、仕入れ単価を抑えることができると言われています。

 

5.資金調達力を買う

業績の良い会社を買収することで、売り上げや利益が向上し、資金調達力が上がる場合があります。例えば、銀行からの融資力を高める狙いであればPL(損益計算書)・CS(キャッシュフロー計算書)が優秀な会社を買収することで融資力が高まります。上場企業であれば、買収を発表することで株価が上がり、資金調達力が高まることがあります。

 

6.権利・許認可・既得権を買う

ブランドや、免許、不動産、特許といった買収しないと獲得しにくい資産を手に入れるためにM&Aが使われる場合があります。ブランド買収の例でいうと東京ガールズコレクションをDLEが買収した事例があります。免許という点でいうと、人材派遣会社や証券会社は人気の許認可ビジネスでM&Aでも高値で取引されることが多いです。

 

7.海外拠点を買う

海外に事業を拡大させたり、新規参入する場合、自社でゼロから基盤を構築するのは非常に難易度が高いです。また、国によっては外国企業へ抵抗感もあるところもあるので、子会社化して事業を進めていく場合もあります。クックパッドやユニクロを運営するファーストリテイリングなどがこの戦略をとっています。

 

8.リスク分散を買う

いわゆる経営の多角化をするためにM&Aを用いる場合です。本業に関連のない事業は共倒れリスクを低減し、経営の安定性を作り出します。社内で全くノウハウのない分野に参入することは難易度が高いため、M&Aが用いられることが多いとされています。

 

ちなみに、上場企業では、コングロマリットディスカウントという現象があり、多角化に対して後ろ向きな面もあります。コングロマリットディスカウントとは、さまざまな事業を手掛けるコングロマリット(複合企業)が、多角化を進めることで投資家が投資しているお金が、なんの事業に使われるか分からなくなり、株価が上がりづらくなる現象のことです。しかし、GE(ゼネラルエレクトリック)のように複数事業を営んでいることで安定感があるということで市場からの評価を高める場合もあります。景気や投資家との対話などによって起こるかどうか決まるので、コングロマリット全てに起こる現象ではありません。

 

9.節税を買う

こちらは、メインの目的になる場合は少ないですが、節税を狙って累積赤字の溜まった会社を買うケースもあります。

 

10.後継者を買う

後継者候補がいる企業を買収して、次期社長にするために会社を買う場合があります。また、社内の後継者候補育成のために、会社を買収し、買収した会社の子会社の社長として抜擢し経営者として育成する例もあります。

本連載は、株式会社M&Aクラウドのサイト『M&A to Z』(https://media.macloud.jp)から転載したものです。

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