本連載は、社団法人・ソフトウェア開発・建設など、約100社の税務に携わる、税理士・笠原清明氏の著書、『税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続』(PHP研究所)の中から一部を抜粋し、実家の相続におけるトラブル回避のポイントを見ていきます。

相続税なんて無縁だと思っていたのに・・・

「うちが相続税の対象になるなんて思ってもいませんでした。決して裕福な家ではなく、子どもの頃から贅沢(ぜいたく)をさせてもらった記憶もないほどで、相続税なんて無縁(むえん)だと思っていました」

 

そう言うのは、つい最近、お母さんを亡くしたばかりのA子さん。50代前半の彼女は一人娘だったこともあり、仲のよかった母親の死に深い悲しみの気持ちでいっぱいでした。

 

A子さん自身は、東京の都心から少し離れた住宅地の貸家(かしや)に、ご主人と子ども2人の4人家族で暮らしており、亡くなったお母さんが住む実家とは車で20分ほどの距離でした。

 

7年前に病気で父親が亡くなってから、お母さんは実家で1人暮らしを続けていたのですが、3年前に「まだ元気なうちだからこそ入っておきたい」と、老人ホームに入ることを自分で決めました。

 

身体も丈夫で、頭もしっかりしていたので、老人ホームに入るのは早いと思ってい、ホームに移っていきました。

 

ただし、長年父親と暮らした思い出のある家を壊したり、手放したりするのは、自分が死んでからにしてほしいと言って、実家はそのままにしてありました。A子さんは家に風(かぜ)を通したり、掃除をしに行って、なるべく実家に通いましたが、普段は誰も住まない家になっていました。

 

A子さんのお母さんは、入居した老人ホームでも、他の入居者の面倒をてきぱきと見るほど元気で、しばらくは元気で過ごすだろうと思っていました。ところが、ある日突然倒れ、一度も意識が戻らないまま帰らぬ人となってしまったのです。

残された遺産は実家と預貯金700万円

葬儀も終わり、あわただしい日々が過ぎて落ち着いてくると、A子さんは相続のことが気にかかるようになってきました。

 

とはいえ、小さな工場に勤めていた昔堅気(むかしかたぎ)の父親と専業主婦の母親でしたから、多額の預貯金が残されているはずもありません。老人ホームへの入居金をポンと払ったのにも、「意外と貯め込んでいたんだなあ」と驚いたくらいでした。

 

実際調べてみると、預貯金はまだ700万円ほどあり、母親が手堅く貯蓄していたことに感心しました。

 

この話は、次回に続きます。

税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続

税理士が教える 知って得する相続 揉めて損する相続

笠原 清明

PHP研究所

相続税ほど“事前の準備”で、納税額に大きな差がつくものはありません。また、遺産をめぐって残された家族が思わぬトラブルに陥ることも…。 本書は、相続の準備はしたいけれども、何をすればいいかわからない人に向けて、…

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