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サプライチェーン企業が講じるべき「災害リスク」の対策

今回は、サプライチェーン企業が講じるべき「災害リスク」の対策について説明します。※本連載では、SMBC日興証券株式会社のシニア財政アナリストとして活躍する宮前耕也氏の著書、『アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー』(エネルギーフォーラム)から一部を抜粋し、人口や財政、エネルギーの観点から日本経済の課題を考察します。

平時の効率性を優先するか、危機時の備えを優先するか

旧来のサプライチェーンでは、あるひとつの部品メーカーが供給できなくなっても、別の部品メーカーが供給できるような、いわゆる「ピラミッド構造」にありました。

 

ですが、近年のサプライチェーンは、中間段階にある一部の部品生産が特定企業に集中する「ダイヤモンド構造」に変化した、と経済産業省は『2011年版ものづくり白書』で指摘しています。

 

[図表]サプライチェーンイメージ

 

理由は2つ挙げられています。ひとつは、製造業でグローバル競争が激しくなり、徹底した効率化・低コスト化が追求されるようになったことです。

 

もうひとつは、完成品メーカーが部品メーカーに対して、独自仕様を要求するようになったことです。

 

その過程で、小ロット生産と低コストを両立する必要が生じました。その実現のため、中間段階で同様の製品を造っている企業同士の合併が進み、あるいは取り残された企業が退出していくことで、部品メーカーの独占・寡占化が進行したとみられます。

 

勝ち残った部品メーカー内でも、効率化のため生産拠点の集中が進みました。その結果、ある部品工場が被災しただけで、それ以降の下流に位置するメーカーの動きがストップし、自動車産業全体に影響を及ぼすような事態が発生しました。

 

効率的なサプライチェーンは、平時においては日本の強みでしたが、危機時においては弱点となりました。似たような課題を抱え、対策が進んでいたのが、エネルギーの調達です。

 

資源の乏しい日本では、ひとつのエネルギー源に偏ることなく、多少コストが掛かっても危機に備えて多様な発電手段を確保していました。その結果、東日本大震災直後には、一時的に電力不足に陥ったものの、その後、じわじわと進行した全国的な原発停止を綱渡りではありましたが、何とか乗り越えることができました。

 

単純比較できませんが、あえて製造業に例えれば、多少高コストとなっても、部品の調達先を複数確保し、一部部品については在庫を備蓄しておく、といった具合です。コストが掛かりますが、供給ショックに陥るリスクは軽減できます。

 

製造業では、危機に備えるよりも、平時の効率性を重視する姿勢がどちらかといえば強かったと思われますが、東日本大震災を機に一部企業で、これまでの仕組みを見直す動きが出ました。

 

例えば、部品などの調達先を2つ以上確保しておく、在庫を極限まで絞らずある程度確保する、地理的に離れた場所に代替工場を建設する、といった具合です。

 

非製造業でも、例えば、全国展開の企業で、東京本社の代替機能を関西拠点に設置する、といったケースがみられました。いずれも、コストが余計に掛かってしまいますが、もし災害が発生して、何らかの形で活動休止に追い込まれた場合、その期間が長引けば長引くほど、国内外のライバルにシェアを奪われてしまう可能性があります。

 

一度失った顧客を取り戻すのは大変です。このリスクが認識されるようになり、さまざまな業種で災害リスクに備え、拠点分散や耐震補強のための設備投資が行われるようになりました。

災害リスクに備えた「設備投資」を後押しする政府

この災害リスクに備えた設備投資は、必ずしもその企業、産業の生産性を向上させる訳ではないため、どちらかといえば、「後ろ向き」な側面はありますが、災害の多い日本で事業を進めていくうえでやむを得ないコストとなっています。

 

この設備投資を、建設業などの国内企業が受注・建設するのであれば、まさに国内需要が発生する訳ですので、短期的には景気にプラス効果をもたらすように思えます。

 

ですが、生産性向上につながるような「前向き」な投資が減ってしまうようであれば大問題です。中長期的な視点でみれば、国内経済の供給力、成長力の抑制要因となる可能性があります。

 

企業にとって「後ろ向き」な分野への設備投資は、ヒト・モノ・カネの制約がある中では悩ましいところですが、一方で災害リスクを減らすという意味では、やはり必要なコストといえます。

 

災害リスクに備え、積極的に耐震改修など設備投資を行う企業が存在する一方で、そうではない企業も存在します。

 

ここで、政府の出番となります。1995年に発生した阪神・淡路大震災を契機に、耐震改修を促進するための国・地方公共団体による減税措置や補助金、融資などの支援制度が整備されています。東日本大震災以降では、自民党が掲げる「国土強靭化計画」もその一環といえます。災害リスクを減らすために、政府は必要な施策を打っていく必要があります。

 

ただし、一国全体でみても、ヒト・モノ・カネに制約がある点を忘れてはなりません。特にカネ(財政)に関しては、日本はストック(債務残高)でみてもフロー(財政収支)でみても、先進国の中で突出して悪く、財政支出にも限度があります。財政支出を借金で賄う場合は、いずれ子孫が何らかの形で、その負担を払うことになります。

 

災害リスク軽減にどの程度カネを回せるのか、あるいは回すべきなのか、そもそも誰が負担することになるのか、というさまざまな視点を踏まえながら、与野党議員による議論と、政府による決断が求められます。

 

以上、少し脱線しましたが、部品不足の影響について述べてみました。自動車産業では、効率性優先のサプライチェーンを追求した結果、一部部品の不足が産業全体の大幅減産につながりました。

 

ヒト・モノ・カネに制約があるなか、どの程度、災害などの危機に備えるべきかが重要なテーマといえるでしょう。

SMBC日興証券株式会社 シニア財政アナリスト

1979年、大阪府生まれ。1997年に私立清風南海高等学校卒業。2002年に東京大学経済学部卒業後、大阪ガス㈱入社。2006年に財務省へ出向し、大臣官房総合政策課調査員として日本経済、財政、エネルギー市場の分析に従事。財務省在籍中に『図説 日本の財政(平成18年度版)』および『図説 日本の財政(平成19年度版)』(東洋経済新報社)を分担執筆。2008年に野村證券㈱入社。債券アナリスト兼エコノミストとして日本経済、金融政策の分析に従事。2011年にSMBC日興証券㈱入社。エコノミストを経て、現在はシニア財政アナリスト。

著者紹介

連載当時の「供給ショック」を振り返る…東日本大震災で日本経済が直面した課題

 

 

アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー

アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー

宮前 耕也

エネルギーフォーラム

創業100周年を迎えた大手証券の新進気鋭アナリストが、日本経済を徹底検証! 人口や財政、エネルギーの観点から、安倍政権への宿題を提示します。

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