今回は、東日本大震災で各メーカーを襲った「供給ショック」について見ていきます。※本連載では、SMBC日興証券株式会社のシニア財政アナリストとして活躍する宮前耕也氏の著書、『アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー』(エネルギーフォーラム)から一部を抜粋し、人口や財政、エネルギーの観点から日本経済の課題を考察します。

震災により、輸送機械工業の生産指数は大幅マイナス

当時を振り返ると、製造業の多くが供給ショックに直面していましたが、そのなかで最も影響を受けたのは自動車メーカーでした。

 

鉱工業生産指数をみると、2011年3月は前月比マイナス16.5%と大幅減産に陥りましたが、業種別では、自動車メーカーなどを含む輸送機械工業が前月比マイナス41.8%と突出して落ち込みました。輸送機械工業では、東日本大震災前の同年2月に比べて6割弱しか操業できなかったことを意味します。

 

輸送機械工業の生産活動を地域別にみると、やはり被災地のダメージが大きかったのですが、被災地以外でも影響が出ました。

 

東日本大震災の影響が最も大きかった東北地方では、前月比マイナス37.2%、計画停電による電力不足に直面した関東地区では前月比マイナス22.7%と大幅減産に陥っていますが、被災地から離れた中部地方も前月比マイナス17.4%、九州地方も前月比マイナス11.8%と、比較的落ち込みが大きかったのです。これは、なぜでしょう?

 

中部地方、九州地方のいずれも、もともと輸送機械工業へ依存度が高いという特徴があります。両地方ともに東日本大震災直後は、その輸送機械工業が大幅減産に陥りました。自動車メーカーとしては、本来であれば、東北地方の工場が被災して生産できない分、他地域で増産を図りたいと考えるのが自然ですが、そうできない事情がありました。

 

それは、素材メーカーや半導体メーカーの工場被災により、自動車を造るのに欠かせない部品が不足したためです。

 

[図表1]2011年3月の増減産率(地域別)

 

[図表2]2011年3月の増減産率(業種別)

日本の製造業の強み「サプライチェーン」が仇に

自動車産業に限らず多くの製造業では、ひとつの製品を造るのに多数の企業がかかわっています。原材料の調達から完成品の製造に至るまで、輸入業者、素材メーカー、部品メーカー、完成品メーカー、卸売業者、運輸業者などが分業を行っています。

 

この分業の連鎖は、サプライチェーン(供給網)などと呼ばれ、例えば、素材や半導体の分野で高い世界シェアを誇る企業が国内にあり、日本の製造業の強みとされてきました。

 

ですが、東日本大震災では、この強みが仇となりました。世界シェアを誇る企業が被災した結果、自動車を造るのに欠かせない部品が不足し、被災地のみならず、全国的な減産に陥ったのです。

 

また、一部の部品では、その不足により、海外の自動車生産に影響を及ぼすケースもありました。

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