今回は、「計画停電」が日本経済に与えた影響を探ります。※本連載では、SMBC日興証券株式会社のシニア財政アナリストとして活躍する宮前耕也氏の著書、『アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー』(エネルギーフォーラム)から一部を抜粋し、人口や財政、エネルギーの観点から日本経済の課題を考察します。

実質GDPへの影響は、年ベースでマイナス0.6兆円程度

計画停電の日本経済へのインパクトは、どの程度だったのでしょうか?

 

この厳密な計測はなかなか難しいです。当時は、電力不足と同時並行して部品不足も発生していました。部品不足と電力不足のどちらが、どの程度のインパクトをもたらしたのか、社会実験して検証する訳にもいきません。

 

ただ、当時の関東地域の製造業活動を振り返ってみると、部品不足に直面した輸送機械工業とかかわりの薄い業種でも前月比マイナス5%程度の減産を迫られました。これを計画停電の直接的な影響とみなし、生産における関東地域のシェア(約3割)を掛ければ、全国の製造業活動に対する計画停電の影響をマイナス1.5%程度、と計算できます。

 

2011年3月の鉱工業全体の減産率はマイナス16.5%でしたので、製造業への影響という意味では、電力不足よりも部品不足のほうが大きかったと思われます。

 

ただし、計画停電の場合は、先ほど述べたようなさまざまな混乱があったため、非製造業の活動にも大きく影響を与えていたと考えられます。非製造業活動も、製造業と同様にマイナス1.5%程度のインパクトがあったと仮定すれば、実質GDPへの影響は、年ベースでマイナス0.6兆円程度(マイナス0.1%程度)あったとみられます。

 

一見小さい数字のように思われるかもしれませんが、計画停電が起きたのは、東京電力エリアのみ、かつ2週間程度の期間でしたので、その割には大きなインパクトをもたらしたといえます。

 

もし計画停電が長期化、あるいは全国に広がっていれば、そのインパクトは数十倍に跳ね上がっていた可能性もあります。

 

計画停電の長期化を回避するため、東京電力は供給力をかき集めました。他電力や発電設備を持つ企業による協力もあって、計画停電は2週間程度の期間で済み、2011年4月8日には計画停電の不実施が決定されました。

 

ただ、供給面の努力もさることながら、同年4~5月は、たまたま電力需要が年間で最も少ない季節であったことも幸いしました。もし計画停電が夏場に発動されていれば、社会生活や経済活動への影響は遥かに大きかったことと推察されます。

震災から半年程度で「供給ショック」を乗り越えた

東日本大震災のあった2011年3月こそ日本経済は急激に悪化しましたが、その後の立ち直りは早かったです。

 

同年3月に鉱工業生産は前月比マイナス16.5%と大幅に落ち込みました。生産水準は、東日本大震災直前の同年2月対比で83.5%まで落ち込んだことになります。ですが、その後は急速に持ち直し、同年10月には同年2月対比で98.6%の水準まで戻しました。部品不足に直面した輸送工業機械の活動が急速に回復しました。

 

自動車メーカーにとっては、サプライチェーンのボトルネック(隘路)となっている部品工場の復旧が急務でしたが、この危機に一丸となって対応することができました。他企業・他業種の従業員が部品工場に集まり、復旧作業に勤しんだ様子がテレビでも放映されていました。

 

その甲斐あって、同年10月には、輸送機械工業の生産水準が東日本大震災前を超えました。東日本大震災から半年程度で、部品不足という供給ショックを何とか克服できたといえます。

 

[図表]2011年の生産動向

アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー

アベノミクス2020―人口、財政、エネルギー

宮前 耕也

エネルギーフォーラム

創業100周年を迎えた大手証券の新進気鋭アナリストが、日本経済を徹底検証! 人口や財政、エネルギーの観点から、安倍政権への宿題を提示します。

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