大きく「4つのカテゴリー」に分けられる
客室の選び方は、海域選びや客船選びに比べるとはるかにわかりやすい。眺望のよさ、部屋の広さ、ベランダやバスタブの有無など、予算と希望との兼ね合いで決めればいい。
一般的に客室は大きく以下の4つのカテゴリーに分けられている。
各カテゴリーは船内の前方・後方の位置や階層の上下によって、さらに細分化されていて、大型客船ともなると、クイーンメリー2(15万1400トン)で32カテゴリー、オアシスオブザシーズ(22万5000トン)で38カテゴリーにも細分化されている。
<スイート客室>
寝室スペースの他にリビングスペースを備えた客室で、一般的な広さは30〜40平米だ。客室は船体の上層階に位置しているので、遠くまで見渡すことができる。上級のスイート客室になると、100平米以上のものもあり、客室内にはダイニングテーブルやバーカウンターが、ベランダにはジャクジーなどの設備が備わっている。メゾネット形式の客室もある。この一部上級スイート客室は、船体の、最後方、上層階中央部などに位置していて、広々としたベランダからは壮大な景観が楽しめる。
<ベランダ付き客室>
最近の客船では最も客室数の多いカテゴリーといえる。寝室スペースにベランダが付いている。15〜25平米ほど。
<海側客室(窓のみ)>
文字通り、海側だがベランダではなく、窓のみが設置された客室だ。一般的には15〜20平米ほど。窓のサイズ、形状はさまざま。丸窓や角窓から、床から天井までの全面サイズと、客船によって大きく異なる。乗船料金も手頃だが、客室数は少なめなので、早期に売れてしまうことが多い。
<内側客室>
窓のない客室で、船内通路の内側に位置している。10〜15平米ほど。乗船料金は最も安いが、こちらも客室数は多くはないので、早期に完売してしまうことが多い。内側客室のメリットは価格だけではない。電気を消してしまえば、真っ暗になるので熟睡できる。客室のテレビでは操舵室からの海の景色がつねに放映されていたりするので、外の情報も得ることができる。
乗船後でも、条件が揃えば客室の変更は可能
「エレベーターの音がうるさくて、これじゃ寝られやしない……」
乗船するなりMさん(57歳)からの連絡を受けた。乗客が一斉に乗り込んでくる乗船日だから、エレベーターはひっきりなしに動いている。
Mさんは眺望よりも価格を重視するタイプだった。昼間はイベントに積極的に参加し、夜はダンスに興じ、客室には寝に帰るだけなので景観がなくとも静かであればいいと割り切って内側客室を選んでいた。レセプションに客室の変更をかけあうと、カテゴリーは下がるが空いている客室がひとつだけあるとのこと。さっそくMさん夫妻を連れだって見に行ったところ、Mさんは「こっちのほうが静かでいい」と変更を希望した。
翌朝、レストランで出会ったMさん夫妻の表情が浮かない。「どうしたんですか?」と私はたずねた。
「いやぁ、エンジンの振動がすごくって、一晩中、ベッドがガタガタ揺れてねぇ……」Mさんの話では、音ではなく振動で眠れなかったようだ。私にもエンジンの振動までは予測できなかった。よくよく考えてみたら、夜になればみんな寝てしまうので、エレベーターの音であれば止むはずだった。反対にエンジンは夜になるとフル回転し始める。
「元の部屋に戻れませんかねぇ?」
フロントの担当者は首を振った。昨日の客室は他の乗客に譲ってしまったという。客室の交換を希望するのは何もMさんだけではないのだ。
「でも、ひとつだけ空いている客室があります。そちらでよろしければ移動は可能です。ただし……」
フロントはいったん言葉を溜めてから続けた。
「カテゴリーはさらに下がってしまいますが……」
Mさんにその旨を伝え、了解を得てから一緒に下見に行った。さらに船底に近くはなったが、エンジンの振動はいまより少なそうだ。Mさんは「こちらに移動します」とうつむき加減で決断した。乗船後の当人の希望なので、カテゴリーが下の客室に移動しても差額の返金はされないが、Mさんはようやく静けさを手に入れた。