前回は、退職金を生命保険で現物支給して税負担を抑える方法について説明しました。今回は「社宅」を活用して節税効果を出す方法について見ていきます。

社宅の適正家賃は固定資産税と床面積から計算

役員の住宅は、個人で借りるより会社で借りて、それを役員個人に社宅として貸しましょう。社宅にしたほうが、個人の手取りが増えるメリットがあります。

 

このように書くと「個人は社宅の家賃が安く済むけれど、その分法人の負担が増えるので、法人にとってはデメリットしかないのではないか?」と考える人もいるかもしれません。ところが、個人・法人でトータルで見てみるとプラスになるのです。では、具体的な数字を挙げて、その理由について見ていきます。


社宅になる前と社宅にした後と、条件が違っていては比較できませんので、ここでは同じ「床面積99平方メートル、3LDKの賃貸マンション。固定資産税の課税標準額は建物が500万円、敷地が60万円」について、話を進めていきます。

 

ちなみに賃貸で借りていたときの家賃は月額14万円です。これを社宅にする場合、その家賃はどのように決めればよいでしょうか。社宅の家賃は、税法上、適正な額の求め方が定められています。その年の固定資産税の課税標準額と建物の床面積から計算します。このマンションの場合は、床面積が99平方メートルなので、小規模住宅用の計算式を適用します。

 

この結果、適正な家賃は、月額1万1680円・・・約1万2000円となります。もちろん、この金額のとおりでなくても構いません。ただ、たとえば家賃を100円にするなど極端に安くしてしまうと、適正な家賃との差額が「みなし給与」という扱いになり課税されてしまうので注意が必要です。通常、社宅の家賃は世間相場の10分の1~5分の1程度が目安となります。

社宅にすることで「税引き前資金」の有効活用が可能

社宅にすることで、家賃が毎月14万円から約1万2000円と、約9%に圧縮されました。年間では約154万円の家賃負担が減ったことになります。次に、家賃負担が減った分だけ、役員報酬を引き下げます。社宅にする前の役員報酬は年間1800万円でしたが、これを年間1646万円にします。

 

つまり、社宅にする前と社宅にした後では、法人の支出は変わらないということです。一方、個人の手取りはどうでしょうか? 表面上はお金の動きが変わっていないように見えますが、役員報酬が減った分、所得税・住民税の負担が軽減されるため、実は手取りは増えます。

 

この例では、以前は年間900万円の所得税・住民税負担がありましたが、役員報酬を減らしたことで所得税・住民税も年間823万円に減りました。つまり、社宅にしたことで、法人・個人トータルで見た場合に年間77万円の節税効果があったといえるのです。


なるほど、メリットがあると実感いただけたのではないでしょうか。この手法のポイントは、税引き前資金の有効活用にあります。住宅を個人で借りる場合には、役員報酬や給料から税金を支払った後で、残ったお金から家賃を支払います。言い方を換えると、目減りした資金から家賃を支払っているということです。

 

一方、企業が家賃を負担する場合には、税金が引かれる前の資金から払います。そのため、法人で同じ14万円の家賃を払っていても、トータルではメリットが出るというわけです。同じように、税引き前の資金を有効活用している例としては、生命保険などがあります。保険料も、個人が負担する場合には、所得税や住民税を支払った残りから払いますが、法人の負担であれば税引き前の資金を活用できます。

 

本連載は、2013年2月4日刊行の書籍『戦略的「節税」経営』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

戦略的「節税」経営

戦略的「節税」経営

越田 学

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の多くの中小企業オーナーが、過大な税負担に悩んでいます。法人では、海外に比べて高い税率の法人税。個人では、金額に応じて税率が上がる所得税。さらに、将来の事業承継を考えたときには、贈与・相続税の問題が重くのし…

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