中小企業庁が「事業承継ガイドライン」を策定した理由
中小企業経営者の高齢化が進み、今後5年から10年程度で、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えようとしています。中小企業に蓄積されたノウハウや技術といった価値を次世代に受け継ぎ、世代交代によるさらなる活性化を実現していくために、円滑な事業承継は極めて重要な課題です。
そこで中小企業庁は、中小企業経営者の高齢化の進展等を踏まえ、円滑な事業承継の促進を通じた中小企業の事業活性化を図るため、事業承継に向けた早期・計画的な準備の重要性や課題への対応策、事業承継支援体制の強化の方向性等について取りまとめた「事業承継ガイドライン」を策定しました。
中小企業が減少すれば、経済規模の縮小にもつながる
中小企業が我が国経済・社会の基盤を支える存在であることは、改めて指摘するまでもないでしょう。中小企業は我が国企業数の約99%(小規模事業者は約85%)、 従業員数の約70%(小規模事業者は約24%)を占めており、地域経済・社会を支える存在として、また雇用の受け皿として極めて重要な役割を担っています。
[図表1]企業数の内訳
出典:総務省「平成26年経済センサス-基礎調査」
[図表2]従業員数の内訳
出典:総務省「平成26年経済サンセス-基礎調査」
また、中小企業の中には時代の先駆けとして積極果敢に挑戦し、その過程で生み出したアイディア、技術やサービス等を武器として、大企業と渡り合い、あるいは新たな市場の開拓に成功する企業も存在し、我が国経済の活性化の一翼を担っているといえましょう。
このことは、小規模事業者についても同様です。小規模事業者は所在する市区町村や近隣自治体への商品販売の割合が多いなど、特に地域における商品・サービスの提供主体として欠くことのできない役割を担っています。一方、他者の提供する商品やサービスを購入する消費者の立場も併せ持っており、小規模事業者を介した循環型地域経済を形成しているのです。
中小企業の数が減少するということは、そこで雇用される従業員の数が減少するということです。従業員にとって働く場所が無くなれば、所得が減少することになり、消費の減少を通じて、経済の規模が縮小することになります。
「中小企業白書(2016年版)」によれば、我が国経済は、経常利益が過去最 高水準を記録するなど景況感は改善傾向にあり、賃金も上昇傾向が続くなど総じてみれば緩やかな回復を実現しているとされています。
一方で、中小企業の数については、1999年から2015年までの15年間に約100万社減少しており、ピークであったリーマンショック後も緩やかではあるが 中小企業数は減少傾向にあります。
これと同時に、経営者の高齢化も進んでいます。経営者交代率は長期にわたっ て下落傾向にあり、昭和50年代に平均5%であった経営者交代率は、足下約10年間の平均では3.5%に低下、2011年には2.46%まで落ち込んでいます。これに伴い全国の経営者の平均年齢は59歳9ヵ月と、過去最高水準に到達しています。
[図表3]経営者の平均年齢と交代率
出典:帝国データバンク「全国社長分析」(2012年)
「全国社長分析」では2011年調査までは個人経営の代表を含んだ調査、2012年調査からは株式会社、有限会社に限定した調査となっており、株式会社、有限会社に限定した場合、2012年の経営者の交代率は3.61%、経営者平均年齢は58.7歳
経営者交代率が長期にわたり下落傾向にあることは、多くの企業において経営者の交代が起こっていないことを示しています。その結果として、1995年頃には47歳前後であった経営者年齢のボリュームゾーンも 2015年には66歳前後になっています。
中小企業経営者の引退年齢は規模や企業の状況にもよりますが、平均では67~70歳程度であるため、今後5年程度で多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えることが想定されます。
[図表4]中小企業の経営者年齢の分布(年代別)
出典:中小企業庁居宅調査「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」(2015年12月)、㈱帝国データバンク、㈱帝国データバンク「COSMOS1 企業単独財務ファイル」、「COSMOS2 企業概要ファイル」を再編加工)
[図表5]経営者の平均引退年齢の推移
出典:中小企業庁居宅調査「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、㈱野村総合研究所)
岸田康雄氏 登壇セミナー>>12/18開催
「相続手続き」完全マスター講座
~相続人調査、財産調査、遺産分割協議~