高度成長期に大量供給されたマンションが「老朽化」
この連載では、「大都市圏の実家」について、相続に関する問題を多面的に取り上げていますが、空き家問題で取り上げられることが多い「老朽戸建てが実家」という人ばかりではありません。老朽マンションが実家のケースを考えてみましょう。
実は、これから大量に空き家になったり老朽化して「建て替え問題」が確実に社会問題化するといわれているのが、高度経済成長期に大量供給された、東京なら多摩ニュータウン、大阪なら千里ニュータウンに代表されるような「老朽分譲団地タイプのマンション」なのです。
国土交通省の統計によりますと、全国の分譲マンションの2014年末の総ストック戸数は約613万戸となっています。そのうち、築40年超のマンションは約51万戸あるのですが、すでに建て替えられた戸数は2013年時点で約1万4000戸と、築40年超の戸数に占める割合はわずか3%弱なのです。
[図表]築30年、40年、50年超の分譲マンション数と今後の推移
わずかに建て替えられたマンションの多くは敷地に余裕があったために、容積率(敷地面積に対して建てられる建物の延べ床面積の割合。大きければ大きいほど高い建物、すなわちマンションなら戸数が多い建物を建てられる)制限いっぱいまで建築することで、建て替え前よりも相当数戸数を増やしたマンションを建築することが可能だった例です。
増やした分の区分所有建物を新規に(もとから住んでいた所有者以外に)分譲して、その代金で建て替え費用が賄えるようなケースだったのです。
ところが老朽マンションの大半(建て替えが実現していない残り約97%の老朽マンション)では、建て替えもできず住人も高齢化して引っ越しもままならない中で、毎年毎年マンションは着実に築年数を重ねていきます。老朽化が永遠に続いていくのです。
それでも管理組合の活動がきちんとなされているマンションでは、「このままいくと水道管がダメになって生活インフラが大変だ」「エレベーターを取り替えないと大きな事故につながる」と考えて12~15年ごととされる「大規模修繕工事」を、長期修繕計画を作成したうえで実行しており、時々テレビや雑誌等で優秀なマンションとして取り上げられたりしています。
一方では、所有者が超高齢化しているために、大規模修繕工事を検討する管理組合活動すらままならないマンションも現実に存在し、その悪いほうの例もテレビや雑誌等で「限界マンション」として取り上げられています。
親がいるうちに、修繕積立金の状況などの確認を
そのようなマンションでは、相続人がいないまま所有者が亡くなってしまったり、相続が発生しても「誰が相続人か分からない」ために管理費や修繕積立金が徴収できないままになってしまったりすることがあります。
空き部屋が多く発生して「廃墟」のようになっている場合もあります。そこまでひどくない場合でも、管理会社を雇うことすらできずに「自主管理」といって、所有者が自ら設備点検や共用部の維持・清掃等を行っている場合もあります。
あなたの実家が「限界マンション」ではないとしても相当な老朽マンションであったなら、親が生きているうちにマンションの管理組合の活動状況や修繕積立金の状況を確認しておくべきです。
万一、各戸の住人が過去に積み立てた修繕積立金を、すでに行った大規模修繕工事でその大半を使い果たしていたならどうでしょう。あなたが相続してから新たに行う大規模修繕工事の際に、「各戸当たり200万円拠出してください」などといわれる事態が現実問題として起こりうるのです。そのときになって「相続しなきゃよかった」と考えても取り返しはつきません。