市場の取引の中で決まる「実勢価格」
「一物四価」という言葉をご存じでしょうか? この言葉を知っている人は不動産に相当詳しい人だと思います。不動産には4通りの価格があるといわれています。
《実勢価格》
一つは「実勢価格」というものです。時価ともいいます。そのとき、その場所で実際に取引されている価格のことです。
これは特にどうやって決めるというルールはありません。売りたい人が「いくらで売る」と決めてマーケットに物件を出して、その価格のままで買い手が現れる場合もあれば、複数の買い手が現れて価格が競り上がることもあります。また、誰も買い手がなくて価格を下げたら見つかったというような場合もあります。
このように市場の取引の中で決まってくるものなので、その時々で大きく変化するものなのです(売り急げば下がりますし、買い急げばつり上がります)。
《公示価格》
次に「公示価格」というものがあります。国土交通省が毎年3月に発表する1月1日時点の1㎡当たりの標準地の価格のことで、公示される地価なので「公示地価」とも呼ばれます。
実際の取引事例をもとに不動産鑑定士が鑑定し土地鑑定委員会が決定しています。公示価格は実勢価格に最も近い価格とされていますが、実際の価格そのものではありません。「売り急いで安くなった」事情や「買い急いで高くなった」事情などを不動産鑑定士が補正して鑑定しています。
また、標準地の価格ですから、一等地であればもっと高い価格がつきますし、標準値よりも不便な場所では価格は下がります。あくまでも「その地域の標準的な場所の標準的な価格」という意味合いで、公共用地の土地収用時などの参考価格としても使われます。
相続税・贈与税の課税価格の計算に使われる「路線価」
《路線価》
そして相続の現場で最も使われているのが「路線価」です。公示価格は国土交通省が発表するのに対して、路線価は国税庁が毎年7月に発表しています。1月1日時点の道路に面した1㎡当たりの宅地の価格で、相続税や贈与税の課税価格の計算の場合に使われます。
この路線価は通常は公示価格の80%くらいであるといわれています。気をつけなければいけないのは「同じ道路についている土地の値段(1㎡当たり)は必ずしも同じとは限らない」点です。といいますのは、同じ道路についていても、真四角な形状の土地と、いびつな形の土地では面積が同じでも総額が大きく異なってくるからです。裏ががけ地になっていても値段は下がりますし、近隣に騒音や公害等を発する工場があっても値段が下がります。
相続のときに、インターネットで国税庁の路線価図を見て単純に面積をかけて計算していては大損する可能性すらあるのです。素人では土地の値段は簡単には決められません。
《固定資産税評価額》
そして最後が「固定資産税評価額」です。「固定資産税」「不動産取得税」「登録免許税」など、不動産の取引や保有に関する税金を算出する場合の課税標準となるものです。これは公示価格のおおよそ70%をめどに3年に一度決定されています。また、相続の際に建物の相続税価格の算出にも使われています。
不動産を複数の人で相続する場合、「現物分割」であれば相続人間で均等に分けてもいいですし、「長男は角地、次男は真ん中の土地、三男は道路から一番遠い場所」と話し合いがまとまれば現物分割は難しくはありません。
また、「換価分割」はもっと簡単です。相続した土地を売って得たお金を法定相続分どおりに分ければ、とりあえずその土地についての相続争いは起きないでしょう。
代償金の算出の際、どの価格を使うかでトラブルも・・・
ところが、「相続財産は実家の土地建物とわずかな預金だけ」という場合に問題が起こります。
例えば、公示価格7500万円、固定資産税評価額5250万円の実家の場合で考えましょう。兄が実家を相続し、弟には実家の価値の半分をお金(代償金)で支払うことにしました。兄は固定資産税評価額5250万円の半分、弟は公示価格7500万円の半分を主張します。
相続人同士の公平を図るために、このような場合は原則的には「時価(=実勢価格)」で評価されることになります。もし、話し合いや裁判所の調停でも決着せずに審判になったりすると、1年以上の期間がかかってきますから、「時価」といっても相場が大きく変動する場合もあります。
「相続不動産の評価額」をめぐる争いは、時価の変動まで起こってしまって複雑怪奇な状況になってしまいます。ということは「代償金を多めにもらいたい」と思っていた人が、何年もかかっているのに「一銭ももらえていない」状態となってしまうのです。