今回は、建物を売却した元オーナーが賃貸事業だけ継続することかできるのかを見ていきます。※本連載は、早稲田大学大学院法務研究科教授・山野目章夫先生の著書、『新しい債権法を読みとく』(商事法務)から一部を抜粋し、債権法のなかの「賃貸借」に焦点を当てて解説します。

「賃貸人の地位の留保」に合意してもらえば問題ない

前回の続きである。

 

もっとも、建物の譲渡があっても、従来の所有者が引き続き賃貸人であり続け、建物賃貸の事業を続けたいとする需要がある場合もある。

 

その場合は、建物の譲渡の当事者の間でクレパス君との関係における賃貸人の地位を譲渡人に留保することを合意すればよい(新605条の2第2項前段)。

 

譲受人が譲渡人に建物を貸すことにすれば、局面の全貌は、建物の譲受人→譲渡人→クレパス君という転貸借の関係として説明される。もっとも、この最初の矢印が示す原賃貸借が終了するとクレパス君がまったく建物の使用権限を失うということは困る(最判平成11年3月25日判例時報1674号61頁参照)から、その場面では、ショート・カットをして建物の譲受人とクレパス君との直接の賃貸借に移行する(同項後段)。

新しい貸し手は、住民に直接賃料の支払を請求をできる

これは少し特殊な場面であるが、一般にも転貸借の法律関係というものが、ときにみられる。それについて現行法も規定を用意しており、原賃貸借の賃貸人が転借人に対し直接に賃料の支払を請求することができ、ただし、賃料の前払があったときはそのことを考慮するという定めを置く。

 

もちろん転借人に請求するといっても、クレパス君が負う月6万円の賃料を限度として、という意味である。この点を丁寧に謳う規定文言の改良が施される(新613条1項)。

 

また、原賃貸借の賃借人による債務不履行を契機とする場合を除き、原賃貸借の合意による終了を転借人に対抗することができないとする現在の解決(最判昭和31年4月5日民集10巻4号330頁参照)を明示する規定が用意される(同条3項)。

新しい債権法を読みとく

新しい債権法を読みとく

山野目 章夫

商事法務

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