今回は、債権法における「賃貸借」契約の概要を見ていきます。※本連載は、早稲田大学大学院法務研究科教授・山野目章夫先生の著書、『新しい債権法を読みとく』(商事法務)から一部を抜粋し、債権法のなかの「賃貸借」に焦点を当てて解説します。

賃貸人が「使用収益させる義務」を負う賃貸借

賃貸借は、一方の当事者(賃貸人)が物を使用収益させ、それに対し他方の当事者(賃借人)が賃料を支払う契約であり、契約が終了すると、賃借人は、その物を賃貸人に返還する(新601条)。このように、賃貸人は、使用収益させる義務を負う。使用を認容していれば足りる使用貸借と異なる。

 

しかも、使用収益させることが賃料の請求をすることができる前提であると考えられる。異なる特約がされることが実際上多いけれども、賃料の支払時期を期末であると定める民法の考え方(614条)は、この理解と整合する。

 

賃料請求権を訴訟物とする訴訟の請求原因において、賃貸借の締結に加え、それに基づき賃借人に物を引き渡したこと、そして、その後あるまとまりのある期間が経ったことを主張立証しなければならないことは、契約をしたのみで引渡しがまだなのに賃料を請求することができるはずがなく、また、引き渡したその場で、では賃料をください、と求めることができるはずもない、という考えによる。

 

のみならず、本当は、引き渡した後日々現実に使用可能な状態にしたことを主張立証しなければならないはずであるが、それは困難である。基づく引渡しと一定期間の経過で賃料を請求することができる、という裁判実務の運用には、引き渡して期間が経過するならば賃借人は日々現実に使用可能な状態にあったとみられる、という一種の推定が潜んでいる。その推定が破られるならば、賃料債権は、消滅する。

賃借物が「全部滅失」すれば、賃貸契約は終了に

言い換えるならば、ここで推定を破ると喩える事由は、権利消滅事実として構成される。まず、賃借物が全部滅失することが賃借人から主張立証されるならば、契約が終了し(新616条の2)、爾後、賃料債権は発生しない。確定的に発生を止めるものであり、新536条1項により賃料の支払を拒むということになるものでないから、権利阻止事実ではない。

 

また、賃借物が一部滅失した場合は、その一部について使用収益させていないことになるから、その限度で賃料債権の減縮が生ずる(新611条1項)。この減縮は、賃料の当然減額として構成され、減額請求権という形成権の行使を要件とする現行法が改められる。この場合において、残存する部分のみでは契約目的を達成することができないときに、賃借人は、契約を解除することにより賃料債権の全部が生じないものとすることもできる(同条2項)。この点は、現行法と異ならない。

新しい債権法を読みとく

新しい債権法を読みとく

山野目 章夫

商事法務

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