今回は、不動産の譲渡に伴う、賃貸人としての地位の移転について見ていきます。※本連載は、早稲田大学大学院法務研究科教授・山野目章夫先生の著書、『新しい債権法を読みとく』(商事法務)から一部を抜粋し、債権法のなかの「賃貸借」に焦点を当てて解説します。

賃借人が借地借家法の対抗要件を具備していれば・・・

前回の続きである。

 

登記をしたときに賃貸借を第三者に対抗することができることは、これからも変わらない。しかし、クレパス君の201号室の賃貸借を登記することは、きっと無理。と言うのは、201号室が属する建物を区分して室ごとに登記記録を起こすようになっていなければ、201号室の賃借権というものの登記をすることはではないから(不動産登記令20条4号)。

 

しかし、心配は要らず、すでに述べたように、借地借家法31条の対抗要件を具備しており、201号室について権利を取得する第三者に敗れることはない。第三者というとき、まず、所有権や抵当権などの物権を取得する者に対抗することができることは、現行法の文言上も明らかである。

 

くわえて、201号室を重ねて賃借した者などにも対抗することができることが明確にされる(新605条の「その他の第三者」)。

「不動産の賃貸人たる地位の移転」が起こる場合とは?

また、このように賃借人が対抗要件を具備している場合において、建物の所有権が移転したときには、賃貸人たる地位が当然に新しい所有者に移転する(新605条の2第1項)。

 

当然に、と言うのは、新539条の2の適用が排除され、関係者の合意および承諾を要することなく、という意味にほかならない。そして、新しい所有者は、所有権の移転の登記をすることにより、この地位の移転をクレパス君に対抗することができ(新605条の2第3項)、賃料の請求などをすることができる。

 

仮に所有権の移転がクレパス君の入居前に行なわれた場合であっても、建物の新旧の所有者が合意すれば、やはり賃貸人の地位の移転が起こる(新605条の3)。

 

[図表]

新しい債権法を読みとく

新しい債権法を読みとく

山野目 章夫

商事法務

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