「暗黙の勤務基準」は大きなトラブルの原因に
前回の続きです。
小さな会社の社長が頭を痛めることのひとつに、労働規則があります。残業のこと、有給のこと、賞与のこと、退職金のこと、セクハラやパワハラのことを、社長としてどのように考えているでしょうか。
昔からの慣習で〝暗黙の勤務基準〟ができている小規模企業が多くあります。
「うちは人員がギリギリなのだから、みんな休まず働いてくれよ」
「社長の私が昼夜なくこんなに頑張っているのだから、残業代、残業代とうるさく言わないでくれ」
「これは俺の会社だ。俺の言うことを聞いていればいい」
そんなふうに言ってはいないでしょうか。口に出さなくとも態度でプレッシャーを与えていないでしょうか。
小さな会社では従業員も家族のようなものですから、サービス残業をしてでも力になろうとしてくれます。そしてそれが、いつのまにか慣習になってしまいます。今までは何の問題もなくやってこられたかもしれません。しかし、「だから、これからも今のままで大丈夫」と考えるのは危険です。会社の存続を揺るがす爆弾を抱えているようなものです。
解決金・弁護士費用のために約200万円もの出費が…
近年、解雇や給料の不払いなど、事業主と個々の労働者との間の労使関係に関するトラブルを巡る「労働審判」の件数が増えています(下記図表参照)。労働審判法が施行された平成18年4月以降、審判件数は急増しました。そして、平成21年からは約3500件もの訴えが毎年起こされています。それだけ労働者の権利意識が高まっているのです。
[図表]労働審判件数の推移
労働審判を申し立てられると、会社は解決金に100万円前後、弁護士費用に100万円前後かかると言われています。訴訟に発展すると、さらに多くのお金が必要になります。
しかも、労働審判は個人の労働者が申し立てるものなので、複数の従業員が別々に審判を申し立てるケースもあります。すると、会社の負担は非常に重いものになってしまいます。
さらには、「あの会社、従業員に訴えられたんだって」という噂が広まると、取引先や銀行との関係悪化は避けられません。取引を中止されたり、融資を打ち切られたりする可能性が大いにあります。
こういうことにならないためにも、ぜひ一度、労働基準を見直してください。就業規則を作成し、問題を解決して、爆弾除去をお勧めします。面倒な時代になったと思うかもしれませんが、時代の変化に対応することも経営者の仕事です。
弁護士や社会保険労務士(社労士)、経営コンサルタントなど、労務問題に精通したプロに相談するといいでしょう。