前回は、債務超過・後継者不在の企業が成功したM&Aの事例を紹介しました。今回は、2つ目の事例として、売却まで十分な準備期間を設け、企業価値を高めていったケースを見ていきます。

息子に承継の意志がないことを確認してM&Aを決断

今回は、08年に成約を見たM&Aを紹介します。「ビフォーM&A」として、売却までに2年間の準備期間を設け、その間に当社が事業コンサルティングを行うなどして企業価値を高めました。しっかりとした準備がM&Aの成功を引き寄せるという好例です。

 

売り手となった会社は、北陸地方の水産品加工会社でした。うなぎをはじめとする焼き魚が有名で、地元の人にはそのブランドがよく知られた会社でした。会社を売却したいという相談を受けた当時、年商は4億円弱。事業は順調で、最高益を出していた頃でした。

 

なぜピークの利益を出している会社が売却を視野に入れたかというと、やはり事業承継が課題でした。10代で先代の跡を継いでいたオーナー社長は、当時60代。息子さんがいたのですが、研究の道に進んでおり、当時はある大学の准教授としてご活躍中でした。

 

M&Aの相談を受けたのが06年頃。さらにさかのぼること4年前に、オーナー社長夫妻は、准教授の息子さんと会社を継ぐ意志があるか、話し合ったということです。その結果、息子さんご本人は研究の道で生きていくことを希望。両親も息子さんの意志を尊重して、子どもに会社を譲るという選択肢を諦めたのでした。

 

その後、オーナー社長は従業員への後継(MBO)なども考えたのですが、なかなか適任者が見つかりません。さらに輪をかけるように、食品衛生の基準などが年々厳しさを増し、最高益を上げている状態とはいえ、食品衛生の基準を満たしたりするために新たな設備投資の必要にも迫られたといいます。

 

60代での新たな借入に躊躇したオーナー社長は、このとき、本気で第三者への譲渡、つまりM&Aを決意したのでした。

売却希望価格と現実の算定金額には大きな乖離が・・・

相談を受けた06年当時、オーナー社長といろいろと話し合ったところ、オーナー社長から売却希望価格が提示されましたが、当社で会社の株価を算定してみた金額とは倍以上もかけ離れた数字でした。

 

オーナー社長としては、「その価格でもいいので、買い手を探してくれ」という判断もあったかもしれません。けれども、幸いオーナー社長はまだ元気なうえ、目先の経営は順調です。焦って売りに出るのではなく、じっくりと時間をかけて株価(つまり会社の価値)を上げる努力をしてから買い手を探そう、という方針で一致しました。

 

そこで、ビフォーM&Aにも注力していた当社が事業コンサルティングを請け負うこととなりました。

 

工場などの現場を丹念に見て回り、事業のプロセスなどを確認した結果、廃棄ロスが多いことに気付きました。一言でいえば作り過ぎで、また販売し切れなかった商品をどこかの販路にフィードバックする工夫もあまりありませんでした。そこで、ムダを極力排除するPDCAのサイクルを提案・実行し、売上よりも利益を高めるという方向性を共有し、実行に移していきました。

 

約2年間、コンサルティングを行いましたが、結果からいえば売上(年商)の4億円弱という価格は2年間で112%増収とほぼ変わらなかったものの、営業利益率は2年間で214%増と、大きな伸びを見せたのです。

 

次回もこのケースについて見ていきます。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

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