前回は4つ目の事例として、第三者へのM&Aではなく、MBOを選択したケースを紹介しました。その事例の続きとなる今回は、MBOを実現させるために必要な事前準備や、株式の集約の重要性について見ていきます。

十分な期間を設けて「従業員である甥」への承継を準備

前回の続きです。オーナー社長の会社には、当時40代の甥が二人働いていました。一人は製造や技術部門を任され、もう一人は販売や営業部門を任されていました。また、事業承継ファンドに買収してもらう交渉の過程で、将来的には甥は十分経営者として二人三脚でやっていける人物と判断。オーナー社長は、甥のことを少し頼りなく感じていたようですが、ファンドとして株式取得後もサポートしていくことを条件に、取締役から代表取締役となってもらいました。

 

最初に相談を受けたときから約2年後の07年秋、オーナー社長とM&A(MBO)の業務委託契約を結び、本格的な承継準備に入りました。実際にMBOが成約したのは、それから1年半後の09年春でしたが、その間、第7回でご紹介した事例で行ったのと同様の「ビフォーM&A」を施しました。具体的には、次期社長の甥に経営や会計のことを学んでもらうのと同時に、外部から経営をサポートする人材を送り込んだのです。

 

先にも述べたようにMBOに際しては、後継者の資質とは別に、前オーナー社長から株式を買い取るだけの資金力が必要です。このケースでは、07年当時、株価を算定したところかなり高額になりました。

 

通常、それだけの資金をおいそれと準備はできません。そこで、当社が懇意にしていたファンドに介在してもらい、そのファンドからの出資を仰いで株式を買い取る資金にしようとしたのです。そのため、ファンドから経営サポートと同時にMBO遂行に向けたサポートも行ってくれる人材を派遣してもらい、次期社長の甥はその間、帝王学を学んだというわけです。

 

幸か不幸か、その後、後継までの準備期間の間にリーマンショックが世界を襲いました。金属加工品の売れ行きは日本のみならず欧州などでもパタリと止まり、オーナー社長の会社でも売上、利益とも激減しました。

 

交渉は難航しましたが、株主、会社、ファンドの三者の合意のうえでの株式の譲渡が行われました。ファンドへの返済は、MBO後に、次期社長となった甥が経営する会社の利益から返済していくというスキームです。当社ではファンドの資金調達にも援助をし、このようなケースでは通常7~8%程度の金利のところを、4%の金利で資金調達を行うことができました。

M&Aの前に「株式の集約」を済ませておくことが重要

このMBOには、他にも学ぶべき点があります。一つは、株式の集約です。

 

甥が1割、ファンドが9割を出資して前オーナー社長から全株式を買い取ったわけですが、実は一部の株式が、某ベンチャーキャピタルに取得されていたのです。ビフォーM&Aの一つとして、事前に株式を集約しておくことが大切です。特に第三者にM&Aで株式を譲渡する際は、事前に情報が漏れるのを防ぐため、「事業承継の一環として株式を集約している」といった名目で、利害関係者などから事前に株式を集めておくことが有効なのです。

 

このケースでも、ベンチャーキャピタルが持っていた株式は、相場で事前に買い戻しを行いました。次いで、キーとなる取引先の上場企業への告知ですが、これはMBOの完全終了後に行いました。この点も後述しますが、取引先や金融機関はもちろん、一般社員に対してもM&Aの情報は最後の最後まで秘密にするのが原則です。

 

晴れて甥が後継者になってからは、会社の業績は急激に回復しました。そして後継した後、11~12年かけて、会社の利益を原資として甥はファンドが有していた9割分の株式をすべて買い戻し、名実共にオーナー社長となりました。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

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