「守りのためのM&A」で規模のメリットを得る
前回の続きです。もうお気付きと思いますが、この持ち株会社を設立して株式交換でM&Aを行うというスキームは、規模のメリットを活かして生き残りを図るというものでした。
化粧品や日用雑貨の卸は、もともとが薄利多売の事業です。大手ならともかく、中堅以下の会社には一般に価格決定権もなく、将来有望とも言いがたいかもしれない状況でした。そして、大手の地方進出という状況もあります。
A~Eの各社は、それぞれのエリアではナンバー1か2番手のポジションにいたとはいえ、業界ナンバーワンや2番手の会社が地元に進出してきたら、ひとたまりもありません。つまり、このスキームは、いつの日か現実になるであろう大手の来襲に備えた、「守りのためのM&A」でもあったのです。
なおこのようなスキームでは、持ち株会社設立後に、当初の参画組であるA~E社以外に、新たにフランチャイジーを募るというビジネスモデルを組み立てることも可能です。
地方ならではの濃密な関係が導くWIN-WINの結論
当社では、このような「地方連合による守りのM&A」を幾つか経験してきました。
一つは石川県を中心に、医薬品卸業の会社を複数集め、やはり持ち株会社を設立しました。県外からの参加企業もあり、大手の製薬卸にも対抗できるくらいの規模になりました。また、重複していた営業所を閉鎖するなどで、ムダの削減にも効果がありました。
その他、持ち株会社ではなく通常の株式譲渡によるM&Aの例ですが、富山の食品スーパーが石川の食品スーパーを買収したケースにも関わりました。
水平統合によるブランド力、規模強化の例ですが、偶然にもこのスーパー2社は、北陸地方の同一グループ内のスーパーでした。そして、大手の進出が現実のものとなっており、M&Aによって大手への対抗を図ったのです。このときは、複数のスーパーマーケットを運営するグループ本社から感謝され、その後もいろいろと相談を受けるようにもなりました。
この例で、もし石川の食品スーパーが清算・廃業したり、北陸が地盤ではない都会の大手企業に買収されていたりしたら・・・。そう考えると、グループ本社から感謝された理由も自ずと明らかです。
仮にですが、イオンやセブンアンドアイ・ホールディングスがもし代わりに進出してきていたら、北陸地方の企業のパイはそれだけ減るばかりか、一つの進出が橋頭堡になって、さらなる進出があるかもしれないからです。
いかがでしょう。単独ではさほどの規模ではない地方の企業でも、複数の会社が手を取り合うことで、生き残りを図るばかりか、大手に伍して事業を続けていくことが可能となるのです。
地方の人間関係は、ビジネスのうえでも一般に都会より濃密です。付き合いのうえで面倒なこともあるかもしれませんが、よい方向に持っていくことで、ウインウインの関係を築き上げることができる一例です。