意外な業種が買い手になる「コングロマリット型」
前回の続きです。M&Aの三つ目のタイプが、「コングロマリット型」です。平たくいえば、買い手の企業が他業種の企業を買収することで、異業種に進出しようとするものです。
上図表では円の左上の位置に当たりますが、本業のシナジーを表す水平型や垂直型にやや近い(一部かぶっているなど)ケースもあれば、まったく本業からはかけ離れたケースもあります。水平型や垂直型が本業のシナジー効果を見込みやすいのに対して、コングロマリット型のM&Aは、異業種に参入することで企業価値自体を高めようというものです。
水平型や垂直型の場合、M&Aは本業のシナジー効果を高めるための「手段」ですが、このケースではM&A自体が「目的」ということもできます。
有名な例としては、旅行会社のHISがハウステンボスを運営していたり、練炭やプロパンガスを販売していたアクアクララレモンガスホールディングスが、宅配水販売やタクシー事業にも乗り出すといった例があります。
当社が関わってきた事例では、ガソリンスタンドが健康ランドやフィットネスクラブの買収に動いたりしたケースなどがあります。コングロマリット型でも、宅配水とプロパンガスの組み合わせは一見するとまったくの異業種、関連のない商品のようですが、重くて持ち運びが大変という接点があり、1台のトラックで同時に運べるといったシナジーといえなくもない接点があります。
他方、ガソリンスタンドと健康ランドはほとんど接点と呼べるものがなく(健康ランドに燃料の油を卸しているといった場合は別にして)、本業のガソリンスタンドの将来が明るくないことを見越し、元気なうちから多角経営に乗り出そうという思惑があってのものでした。なお、水平型がともすれば買い叩かれやすいのに対して、コングロマリット型はドライに値段ありきといった側面が強くなりがちです。
マッチングを考えていて面白いのもこのタイプですが、奇をてらい過ぎてもダメで、売買の双方にメリットがあるか、よく吟味する必要があります。
新たな商品と市場を開拓する「周辺市場進出型」
最後が、「周辺市場進出型」です。異業種または業態の異なる企業を買収することで、新商品や新市場を開拓することを目的としたM&Aです。上図の下部にあたります。
例えば理容店を数店舗構えている会社があるとします。この会社が同業の理容店を営む会社を買収するのは4つのタイプのうち「水平型」にあたります。同じ会社が、美容店を営む会社を買収する場合はどうでしょう。コングロマリット型といえなくもありませんが、理容と美容は免許制度や客層こそ違え、店舗の仕様や接客のノウハウなどは共通する部分が多く、理容の会社にとって「新商品(サービス)開発」と「多角化」の側面があります。このようなM&Aが「周辺市場進出型」です。
当社が扱ってきた事例では、葬儀社が墓石を扱う石材会社を買収した事例があります。これもコングロマリット型といえなくもありませんが、葬儀と墓石には密接な関連があり、上図では「市場開拓」と「多角化」の要素を含んだM&Aといえるでしょう。
また、7回目の連載で改めて扱いますが、惣菜や乾き物を製造販売していた金沢の会社が、食品の小売店を買収した事例もありました。売り手の小売店は、「近江町市場」という金沢市民の台所での販売権を有していました。その権利は、単にお金を積んだからといって買えるものではなく、買い手の製造企業としては、市場での販売権欲しさも当然に加味したうえでM&Aを進めたのでした。
このケースは、上図の「市場開拓」をメインの目的に、また従来から作っていた既存製品の販路拡大という意味では「市場浸透」の要素も兼ね備えたM&Aといえます。