「希望する職業に就いた後」の人生までも考えさせる
「のんびりした常夏の島」というイメージのハワイですが、子どもの教育、とくに金銭教育に関しては非常にシビアです。
アメリカの学生も、高校に入ると大学受験について、いろいろと考えるようになります。その際、日本では少しでも偏差値が高い、いわゆる有名大学に入ることをゴールとしますが、こちらではまず「自分が将来、何になりたいか」を考えさせます。
たとえば、息子が中学3年生のときにこんな授業がありました。
息子は当時、建築家になることが希望でした。そこで、自分の夢の仕事に就くまでにかかる費用をざっくりと把握させるのです。
建築家になるためには、どういう大学に行って、学費はいくらで、卒業するまでに何年かかるから、合計でいくら必要になるのか。
また、大学卒業後、最初は誰かのアシスタントとしてスタートして、そのときの年収がいくらくらいで、晴れて一人前の建築家になったら、およそどれくらいの年収を稼げるのかを、すべて自分でリサーチさせます。
次に、建築家としてのお給料を、どのように使うのかを考えさせます。
たとえば、住居費の目安として給料の何%を当てればよいのかというのも、最初に教えるのです。さらに、今の自分の暮らし、つまり親に与えてもらっている暮らしが、およそいくらかかっているのかを把握させます。
自分が住んでいるエリアの家賃はこれくらいかかる、食費はこれくらいかかるというように、親と同じ生活レベルをさせるためには、どのくらいの金額が必要なのかを算出させるんですね。
そうすると、将来、今と同じ生活レベルを望むなら、これくらい稼がなければダメなんだということもわかります。これらを踏まえたうえで、自分の履歴書をつくらせ、模擬面接で建築家になるためのプレゼンをさせるのです。
模擬面接では、生徒の父兄がボランティアで面接官になり、実際に点数をつけ、一定以上の点数をとれたら、あなたはその仕事に就けます、という評価を下します。もし点数が足りなかったら、たくさんの職業カードが入っている箱の中からくじを引いて別の職業が与えられ、今度はその職業について考えさせます。
息子は2点足りなくて、箱の中から観光バスの運転手を引きました。
「ママ、バスの運転手になると、家賃には600ドルくらいしか使えないんだけど。どこに住めるかな?」
「600ドルだったらハワイでは一人暮らしはできないから、誰かとハウスシェアしない限りは厳しいかな。あとはガールフレンドの家に転がり込む以外ないかもね」
冗談交じりの会話ですが、バスの運転手さんの年収はこれくらいで、その何%を家賃に充てるから住めるのはこういうエリアで、どのくらいのレベルの生活費を使えるのかということを、もう中学生の段階で考え始めるわけです。
高校では「自分の人生のプランニング」を学ぶ
希望する職業につけなかったら箱の中にガサガサ入っている職業から選ぶしかない。これはまさに社会の縮図です。努力や勉強をしてこなかった人は、自分がやりたくない仕事に就いて、それで生活していくのが、リアルな世界なのですから。
自分がなりたい職業に就いて、自分がなりたい夢に近づけていくのか。それとも適当にやって、適当な仕事をやって暮らしていくのか。どちらを選ぶのか、どんな大人になりたいのか、自分で考えさせるのです。
また、子ども自身も希望する大学の学費を親が払えないようだったら、自分が一生懸命勉強して奨学金を貰わなきゃいけないと危機感を持つわけです。
そして最終的には、大学側に、奨学金を払ってでも来てもらいたいと思ってもらえる人材となるために、高校の4年間で将来のビジョンをしっかり考え、子ども自身で人生をプランニングすることを学ぶのです。
あらためて私自身の受験時代を振り返ったとき、将来なりたい夢に向かって勉強していたわけではなく、ただ偏差値を上げていい学校に入ることにしか目が向いていなかったことを考えると、日本では子どもに将来のビジョンを見せながら勉強をさせるということ自体がなかったなあと思います。
だから、東大卒などの高学歴を持ちながらも、ニートになったり、引きこもったりする子が出てくるのではないでしょうか。
自分が理想とする生活をするために頑張りなさい、そのためにはこういうお金がこれだけかかるよと、ワクワクした理想とシビアなお金をセットで教えるという教育に、目から鱗が落ちました。