習近平政権は鄧小平以来、中国の外交政策を特徴付けてきた韬光養晦(タオグアンヤンフイ)政策――能力を隠して目立たない、貧困問題を抱える途上国としては、外交より国内政策に専念すべきとの方針――を転換する中で、従来にも増して、歴史的に政治外交政策の一環だった対外援助政策を積極的に活用する姿勢を強めている。今回は、援助外交を進める一方、新興国、途上国の立場を取り続ける中国の戦略を考察する。

世界第2位の経済規模ながら、開発援助を受ける中国

中国は積極的に援助外交を進める一方、国際援助機関からなお途上国として開発援助を受けている。

 

世銀(含むIDA)融資承認額は2016年7月〜17年6月財政年度24.2億ドルで最大の借入国、またアジア開発銀行(ADB)からは16年15プロジェクトに対し約21億ドルの融資を受けており、件数では加盟国中最も多い(16年までの援助は累計で1133件363.1億ドル、加盟国中2位)。譲許性の高いアジア開発基金(ADF)からの融資はないが、これは歴史的に政治的要因から認められてこなかったものだ。

 

世界第2位の経済規模で、14年中頃のピーク約4兆ドルから減少しているとは言え、なお約3兆ドル(17年6月)という世界最大の外貨準備を有する国が、他の途上国への援助を増やしつつ、他方でなお援助を受ける側にもあるというのは常識的には奇妙なことだ。

中国援助白皮書には「世界最大の途上国」と明記

中国にとって、国際援助機関から受けている融資は経済的にはほとんど意味はない。それにもかかわらず、援助を受け続けている大きな理由は、新興国、途上国としてのステータスを維持しつつ、様々な局面で巧妙に「大国」と「新興国」「途上国」の顔を使い分けることにある。

 

国際援助機関から援助を受けることは、なお先進国ではないことを国際的に認知させるための有効な手段だ。そして国際援助機関の中で新興国、途上国のリーダーとしての役割を担い、数で言えば世界でなお圧倒的に多い途上国を味方につけ、それが他の様々な局面で役に立つという読みがある。援助機関の側からすると、各機関の「卒業政策(graduation policy)」、援助からの卒業をどう判断するかにあたって重視される援助適格基準の1つ、1人当たりGNIなどの客観的指標が満たされていれば、簡単に「卒業」させるわけにはいかない。

 

世銀は毎年この基準を見直しているが、2017年最新の基準では、3,955〜12,235米ドルが「高中得国」でなお援助適格(ただし譲許性の高いIDA融資は不適格)、中国の1人当たりGNIは16年7,800ドルだ。援助機関や援助資金を提供する先進国にしても、援助を続けることで最低限、内政干渉に敏感な中国と経済政策面での対話をするきっかけになるという面もある。こうした双方の思惑を考えると、中国が援助から卒業することは当面予想し難い。

 

※現在、増資を検討している世銀に対し、米国財務省は、世銀の融資が中国を始めとする民間資金からの借入能力の高い新興国に偏り過ぎており、これらの国の世銀からの「卒業」について検討することが先決と主張していると伝えられている。

 

中国援助白皮書14年版冒頭にはまず、「中国は世界最大の途上国」であると明記されている。援助を受ける立場に固執することは、自ら積極的に対外援助をすることと合わせ、全体として中国の援助外交戦略を構成していることを忘れてはならない。

 

<主要参考文献>

1.「中国的对外援助白皮书」国务院新闻办公室、2014年7月、2011年4月

2.「新中国成立后对外援助30年」2014年7月11日付南方网

3.「中西不同方式引评说援外:中国有‘历史厚度’」2014年7月15日付环球时报

 

 

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