習近平政権は鄧小平以来、中国の外交政策を特徴付けてきた韬光養晦(タオグアンヤンフイ)政策――能力を隠して目立たない、貧困問題を抱える途上国としては、外交より国内政策に専念すべきとの方針――を転換する中で、従来にも増して、歴史的に政治外交政策の一環だった対外援助政策を積極的に活用する姿勢を強めている。今回は、中国が目指す「国際社会の中での位置付け」について見ていく。

習近平政権の誕生前後から見られた「3つの特徴」

このように、中国の対外援助は、その時々の国際的な局面で重要な政治外交手段の1つとして活用されてきた。それでは、中国は現在、その政治外交政策を考えるにあたって、自らを国際社会の中でどう位置付けようとしているのかが問題となる。この点で、習近平政権誕生前後から3つの特徴が見られてきた。

 

第1に、国際社会で様々な事項を議論し、方針を決める枠組みはどうあるべきかというグローバルガバナンス(全球治理)問題に強い関心を持つようになってきたことだ。中国経済交流中心(CCIEE)と国連開発計画(UNDP)中国事務所が共催した「全球治理、前進か後退か?-途上国の視角」と題した「全球治理高層(ハイレベル)政策論壇」(2012年12月、北京)に代表される一連の国際会議を開催、アジアのみならず欧米各国から経済や国際政治の専門家を招いて議論をしてきた。

 

国際政治外交問題を扱う有力シンクタンクでは、全球治理を扱った論文が近年多く見られる(例えば最近では、「中国はいかにグローバルガバナンス・ルールのゲームに参画するか」張蕴岭 社会科学院アジアグローバル戦略研究院、2016年9月)。

 

第2に、そうした議論の中で、G20の枠組みを積極的に評価しこれを重視する姿勢が強い。中国は元来、国際通貨基金(IMF)や世銀、G7といった国際組織あるいは国際的枠組みは欧米先進国主導で「民主的でない」と批判してきた。国際金融の面では、中国内にも、伝統的な枠組みは、問題はあるにしてもそれなりに有効に機能してきており、G20が近い将来これらに完全に代替するといった過大な期待は持つべきでないとの見方がなお有力だ。そうであるからこそ、IMFや世銀への出資を増額し、これら既存組織での自らの発言権拡大を目指し、また人民元のSDR構成通貨入りにも強く執着してきた。

 

ただ同時に、自らがより国際的影響力を発揮できる枠組みを模索する中で、G20の役割を積極的に評価する傾向は強い。2016年9月杭州でのG20サミットについて、「近年中国がホストした最高レベル、最大規模で、影響力も最大の多国間会議」(16年9月29日付人民論壇)と位置付け、また習近平主席が17年の新年あいさつの中でわざわざG20をホストしたことに言及し、「世界に中国の知恵と対策を示した」と自賛したことからも、中国がG20をいかに内外にプレイアップしたがっているかがわかる。中国がG20を評価する主たる理由は以下の2点だ。

 

①合法性と効率性のバランス。すなわち、一部先進国が主導する枠組みでなく、文化的、地理的に多様なより多くの新興国や途上国が平等なステータスで参加していることから、包容性、開放性、民主制を備えている。同時に、国連のようにそうした合法性を追求するあまり、意思決定が遅くなる等、効率性を犠牲にしていることもない。

 

 

 

②二国間争議のマルチ化。米国等と二国間(バイ)で様々な交渉を行って中国が競争上弱い立場になる場合に、多国間枠組み(マルチ)にもっていくことでそれを回避できる(ただしこの点について、中国は事柄によって、バイとマルチを巧妙に使い分けている)。

 

第3に、習政権は学界も取り込んでいわゆる大国関係を標榜している。学界では2012年11月党大会での指導層交替と軌を一にして、大国関係論の理論的基礎を提示する論考が多く見られるようになった。

 

「安定的な体系下での新しい大国関係」(毛沢東鄧小平理論研究、2012年10月)に始まり、「非伝統的安全保障問題への対応と新型大国関係の構築」(数学与研究、2014年11月)等数多くの論文がある。中国最大のシンクタンク社会科学院のアジア太平洋グローバル戦略研究所(旧アジア太平洋研究所)は11年以降毎年「中国周辺安全形勢評価」と題する報告を発表しているが、最新17年版の副題「大国関係と地区秩序」にも見られるように、報告のキーワードは一貫して「大国関係」だ。

 

そこで強調されている「新型大国関係」の「新型」は「冷戦時代と異なり、体制の違いが国家関係構築にマイナスの影響を与えないようにすること」、「大国」は「西側諸国が意味する大国と異なり、開放的世界経済への融和を通じて、不断に発展する社会主義大国」、「関係」は「中国と他の国が共に発展し、国際社会が利益共同体であること」を意味するとされる。

 

なお、17年4月の米トランプ政権になって初の米中首脳会談では、オバマ政権時こうした会談で必ず中国側が主張してきた「大国関係」が中国側から持ち出されたとの報道は中国側メディアにも見当たらず、中国側は「新たなスタート地点」の重要性を強調したとだけ伝えられている。トランプ政権の外交面での不透明性を踏まえ、中国側が慎重に様子を見ていること、また秋の党大会を控え、国内外に米国との協調関係を演出するため、あえて大国関係に言及することを避けたもので、現状、習外交に何らか実質的変化があったと判断するのは早計だ。

最新援助白皮書の表現が「力所能及」となった理由

習近平政権が韬光養晦(タオグアンヤンフイ)政策を転換した背景には、自らの国際社会における現在の位置付けに対する以上のような認識がある。好意的に見れば、中国としてどうすれば大国としての国際的責任を果たし、冷戦時代のような国際的対立を避け協調を図ることができるのかという意識の現れと言えるが、他の新興国や途上国を取り込みつつ、できる限り国際社会での影響力を高め自らの利益を守る戦略を考えていることは明らかで、対外援助はその戦略の重要な手段の1つということだろう。

 

また上述、「量力而行、人力而為」との表現が最新援助白皮書では援助原則の1つとしては明記されず、敢えて文脈を変えて「力所能及」とされたことは、文革前後の歴史から深読みすれば、習近平政権がイデオロギー転換し(いわゆる中国で言う新左派への傾斜)、対外援助を外交的により積極的に利用しようとしているシグナルかもしれない。

 

<主要参考文献>

1.「中国的对外援助白皮书」国务院新闻办公室、2014年7月、2011年4月

2.「新中国成立后对外援助30年」2014年7月11日付南方网

3.「中西不同方式引评说援外:中国有‘历史厚度’」2014年7月15日付环球时报

 

 

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