地方銀行等の「アパートローン残高」が急増
本連載では、相続税評価額を下げる以外のポイントとなる相続税対策として選ぶべき物件について、物件の特徴を比較しながら「やってはいけない相続税対策とは何か?」について考えていきたいと思います。
平成28年12月14日の新聞紙面にアパート融資の過熱警戒という記事が掲載されました。この記事におけるポイントは2つあり、「1つ目は相続税の節税目的でアパート経営に乗り出すケースが増えておりアパートの建築が増えていること」「2つ目はアパートの供給が増えているなか部屋の借り手が見つかれば問題ないが、首都圏や人口減の地方で空室が増える兆しが浮かんできたこと」が挙げられます。
また、地方銀行などによるアパートローンの残高も急増していることから、金融庁は融資の過熱感を懸念しているという内容もあわせて紹介されました。融資の過熱ぶりを警戒して、金融庁は節税効果が薄まりアパート経営者の負担が増える恐れもあるため、近く金融機関を通じた実態調査に入るという方針を示しています。
日銀は、アパート経営者に対する新規貸出額は、平成28年1〜9月に約3兆5000億円と前年同期比17%の増加と発表しました。平成28年10月の住宅着工戸数も貸家は22%増と12ヵ月連続で増加し、平成20年以来、8年ぶりの高水準になっていることに対して懸念をしているのが現状です。
[図表]
アパート融資の調査に乗り出した金融庁
これから金融庁は、地方銀行105行を対象とし、特にアパートローンを伸ばす銀行を抽出して、お金を借りる側に不利益な条件になっていないかを調査すると発表しています。具体的な調査内容としては、金融機関に節税効果をうたった事業者らの提案書を提出させて、1件ごとに節税に繋がるかどうかを点検するようです。実際に相続が発生する時に、アパートの資産価値がローン残高を上回っているような場合など、納税額が増えて結局は節税に繋がらないケースも多発するとみて警戒を強めています。
この問題を整理すると、「①相続税対策でアパートが供給過剰になっていること」「②それによって空室率が急上昇していること」「③本来、地方の産業発展に対し融資をしなければいけない地方銀行が本来の目的とは違ったアパート経営に過剰に融資していること」「④その融資が本当に相続税対策になっているか疑念を抱いていること」といったポイントが挙げられます。
日銀は、地方銀行のアパートに対する融資を抑えることができれば、アパートの供給も抑えることができ、空室率が急上昇することなく、消費者の利益が保護され、それによって市場の混乱を抑えられると考えているのでしょう。しかし、地方銀行がアパートの融資に消極的になることで、地方のアパートが売却しづらくなるという懸念もあります。なぜなら、アパート経営を実施する人のほとんどが、融資を受けて購入するからです。次に購入する人の条件が悪くなれば、市場の活性化は見込めず、資産価値の維持が難しくなるのは至極当然と言えます。
サブリース契約が大家の負担を増やす場合も
アパート経営の問題は、過剰融資だけではありません。アパート経営では、一般的に建設請負業者が一定期間の家賃収入を保証するサブリース契約がほとんどです。ただ、このサブリース契約の問題点として、空室率や家賃の下落に応じて2年ごとに保証額を切り下げる契約事項があるため、思わぬ形で大家の負担が増えるケースが急増しています。さらに、修繕費を負担する必要があることを十分に認識せずに、アパート経営を始めている人も増えているのが現状です。
こういった状況に日銀は、節税効果が疑わしかったり、アパート経営の収支が赤字だったりする事例が多ければ、金融機関に検査・監督で問題点を指摘し是正を促す方針を示しています。これは、将来的な貸し倒れリスクが銀行の財務健全性に与える影響という観点ではなく、ローンを借りている個人(施主)の実態把握に力点を置いて調べる方針であるという見解を示しました。簡単に言うと、相続税対策でアパート経営を実施している個人が失敗する事例が増えそうなため、日銀は懸念を抱いているということです。