近年では「時間」「費用」が精査されるように
時間及び費用についての懸念事項については、誇張して述べられることもある。特定の場所での訴訟は、国内手続の予測のつかない変動によって、国際仲裁手続より費用がかかることがあり、仲裁手続にかかる時間の長さに最も批判的な者でさえ、複雑で非効率な裁判システムの中で自身の事件が複数のレベルの再審理を経ているのを見れば、国際仲裁に好意的になるかもしれない。
かかる考え方は、国際仲裁の正当性をその利用者に確信させ、新たな市場で国際仲裁が引き続き成長及び拡大できるように、仲裁手続の費用を削減し及び期間を短縮したい、という弁護士、仲裁人及び仲裁機関が共有する利害を変化させるものではない。
近年、時間及び費用が精査されるようになったのは歓迎すべき傾向で、これらに真摯に取り組むことがさらに重要である。
シンガポール国際仲裁センター(SIAC)の活動とは?
Q:近年、国際仲裁機関として多くの案件を扱っているシンガポール国際仲裁センター(SIAC)は、積極的に国際仲裁の海外プロモーションも進めており、注目されていますが、ご紹介いただけますか?
A:SIACは、シンガポールに所在する代表的な国際仲裁機関の1つで、継続中の仲裁事件は2015年10月1日現在600件に上ります。新規仲裁事件の申立件数は、2004には78件だったのが、2013年には259件、2014年には222件と、約10年間にわたって大幅に増加しています。
シンガポールは、アジア地域の経済中心地となるべく、投資・取引に伴う紛争解決機能についても国家レベルで推進政策を進めています。
これに伴い、紛争解決機能を設備面で充実させるため、2009年にマックスウェルチェンバーズが開設され、SIACをはじめとする仲裁機関や仲裁を専門に扱う事務所等がそこに拠点を置いています。
さらに、紛争解決機能を制度的にも充実させるため、SIACは、その仲裁規則において、簡易仲裁、緊急仲裁といった利用者目線での制度を積極的に取り入れています。
これらの努力と、紛争解決をビジネスとして発展させるシンガポール政府の国家的な政策と相まって、SIACは、アジアにおける国際仲裁の中心的存在の1つとして利用され、多くの成果を挙げています。
本書執筆時点において、編著者の髙取もSIACの国際仲裁人候補者パネルに掲載されており、今後さらにトレーニングを受けた日本の国際仲裁人が関与していくことも期待されています。
また、日本としても、同様に天然資源が多くないシンガポールが国家として紛争解決ビジネスを促進させている実態と成果に学び、国際紛争解決のプラットフォームとして、国際仲裁の促進を図っていく必要性が高いと考えます。