通常手続に代えて、迅速化された手続の選択が可能に
前回の続きである。
(7) 迅速化された手続
手続の初期段階の救済策に関する定め以外にも、いくつかの機関では、当事者が通常手続に代えて迅速化された手続を選択できるとしている。例えばSIAC規則では、3つの場合に、そうした代替手続を選択できるとしている。
● 紛争の対象額が500万シンガポールドルを超えない場合
● 当事者がそのように合意した場合
● 例外的な緊急時
仲裁機関が迅速化された手続を適用すると決定した場合、事件は単独の仲裁人に任せられ、仲裁廷が設置されてから原則として6か月以内に判断が下される。
(8) 時間及び費用を早期に考慮
時間と費用の削減に関連する要素は多く存在するが、その中には、仲裁契約(合意)を作成する段階で決定できるものがある。以下を含む。
● 仲裁条項の解釈に異議があると主張され紛争の対象となることを防ぐために、簡単で明確な条項を用いること。仲裁手続においては、裁判に比べて、特にこれら仲裁条項の不明確性などをめぐる手続をめぐる争いが顕在化し、時間を要する原因となることが多いのに留意すべきである
● 単独の仲裁人が利用できる旨を定める
● アドホック仲裁ではなく、機関仲裁を選択する
● 仲裁手数料が予想できる機関を選択する
● 迅速かつ費用効率の高い手続を推進する仲裁規則を選択する
● 仲裁地として広範なディスカバリー開示手続や長期のヒアリングが予定されていない場所を選択する
また、当事者は、仲裁手続費用の削減のため、例えば関連契約における補償条項の適用などによって、仲裁手続の開始段階で、当該費用の支払を第三者に委ねることができるかもしれない。
また、第三者からの資金拠出により当事者が仲裁費用を賄うケースもあり、場合によっては、成功報酬に基づき弁護士を雇うことで、手続開始段階における費用負担を抑えることも検討に値しよう。
グローバルな対応能力を持つ法律事務所に依頼を
(9) 日本企業としての費用を削減するための仲裁人選任
以上のような費用削減策を実現するため、特に国際的なビジネスを行っている日本企業としては、より効率的に迅速かつ明確な仲裁手続を進行できる仲裁人を選任することが望まれる。
そのためには、仲裁合意を締結する段階から、あるいは日常のビジネスの段階から、関連紛争を想定し、紛争解決として仲裁を選択する場合には、どの管轄でどのような仲裁人を選任できるのか、具体的な想定をしておく、ないしはそのような可能性を確実にしておく必要がある。
ただ、日本企業の場合には、仲裁の経験が乏しい企業も多く、例えば、仲裁人としてどのような国籍の仲裁人をどの管轄で選任できるのか、具体的な情報が不足している場合がほとんどである。
片や、仲裁に専門的な知識や経験を持つ弁護士等の情報を持つ場合は、既に具体的な案件を依頼するなど、コンフリクト(利益相反)が発生している状況であることも珍しくない。
そこで、これらの情報を補填し、契約締結段階、あるいは紛争顕在化の段階で、的確な仲裁人を想定できるよう、各管轄において仲裁実務に経験を持ち、情報を十分に有するグローバルな対応能力を持つ法律事務所、ないしは弁護士チームに相談、迅速な対応を依頼することが得策である。