東南アジア業者の「国際事業取引」の増加が原因
以下の図表1は、仲裁件数の増加によって主に恩恵を受けたのが、既に確立されていた仲裁機関である、ICC、ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)及び米国仲裁協会― 国際紛争解決センター(AAA-ICDR)であることを示している。
[図表1]仲裁機関が管理した国際事件の数
こうした機関は、他と比べてより高い水準の実質成長を記録したものの、総数が増加しているため、必ずしも1つの機関の取扱件数が増えたことによって、他の機関の取扱件数が減ったということではない。
表の数値を取扱件数の変動関数とした場合、異なった姿が見えてくる。以下の図表2は特に大きな動きが見られた6つの機関の2005年から2009年にかけての取扱件数の変動を示している。
[図表2]2005年から2009年にかけての取扱件数の変化
当該図では、東南アジアの業者の国際事業取引が増加したことによって、特に2つの機関、SIAC及びHKIACの取扱件数が増加していることを示している。かかる傾向は、近年、シンガポールや香港で開業する国際仲裁を専門に扱う法律事務所や弁護士が増えていることからもうかがえる。
日本が関係する国際仲裁も徐々に拡大傾向
日本では東南アジアほどの増加は見られていないものの、ここ数年、日本が関係する国際仲裁も徐々に拡大しつつある。日本の主要な商事仲裁機関である日本商事仲裁協会(JCAA)が管理する取扱件数にかかる傾向が見られる。
●2005年:11件
●2006年:11件
●2007年:12件
●2008年:12件
● 2009年:17件
●2010年:21件
●2011年:17件
●2012年:15件
●2013年:26件
●2014年:14件
JCAA、日本仲裁人協会(JAA)、Chartered Institute of Arbitrators(CIArb)などが啓発に努めていること、国際的な仲裁ネットワークを有する国際的な法律事務所が日本でプラクティスを拡大してきていること、UNCITRALモデル法の一面である修正仲裁法が2004年に成立したことなど、複数の要素がかかる増加に寄与した。
また、日本企業の関連でいえば、秘密保持や執行容易性などの仲裁のメリットに基づき紛争解決条項において仲裁を選択するとしても、必ずしも仲裁機関としてJCAAを選択しているものではない。
JCAAにおける国際仲裁の数はまだ限られていても、ICC、AAAなど国外における各仲裁機関を利用し、中にはその上で仲裁地として日本を選択する場合も少なくなく、日本企業を当事者ないしは関係者として含む仲裁事案はさらに増加傾向にあることに留意すべきである。